遊撃手! SG(シューティングガード)

 日本のバスケでは、SGシューティングガードとは3Pシューターのポジションである、と解釈される事が多いです。

 間違いなくスラムダンクの三井寿をその草分けとするイメージであり、このイメージを定着させた事の功罪について個人的にはいろいろ言いたい事もありますが……ともあれこのポジション、実はロングシュートさえ上手ければすべて良しみたいなポジションではない事を、本項を使って語っていきたいと思います。


 さて、まずはポジション名について読み解いていきましょう。

 前項で紹介したPGポイントガードは、「味方に指示を出す役割の後衛ポジション」なので"ポイントガード"でした。

 然るにSGシューティングガードは、「シュートを撃つ役割の後衛ポジション」であるという解釈が成り立ちます。

 後衛からシュートを撃つってやっぱロングシュート撃つ人なんじゃんって思われるかも知れません。

 待たれよ。

 それだけではないのです。


 当コラムで何度も主張していますように、バスケットボールにおけるオフェンス戦術の本質は、「得点期待値の高いシュートを撃つ事」です。

 ロングシュートは成功率がどうしても低くなりますので、得点期待値で言うと、通常は低くなります。

 バスケットボールには3Pシュートという概念があり、まあゴールから約6.7m(ゴールに対する角度によって若干変わります)の距離に引かれたラインよりも遠い位置からのシュートは通常のシュートよりも1点多く獲得できるというルールではあるのですが、それとてフリーのゴール下シュートを上回る得点期待値にはなりえません。

 一流のシューターでも40%というのが3Pシュートの成功率の相場です。つまり一流のシューターですら得点期待値は3×40%=1.2。これはフリーのゴール下シュートと比較すると、アマチュアプレイヤーの撃つそれよりも低い期待値です。


 さらに言うと、SGシューティングガードはわりと他のポジションとの境界が曖昧なポジションでもあります。

 PGポイントガードと同じくGガードに分類されるポジションでもあるため、速攻戦には積極的に参加しなくてはなりませんし、PGポイントガードがボール運びに苦戦しているようならそれを補助してあげる事もあります。

 一方で、後述のSFスモールフォワードとの境界が曖昧な部分もあります。両翼ウイングのポジションという言い方でひとまとめに扱われる事も多く、ある程度のスピードとシュート力が必要であるなど、求められる素養が類似しています。

 実際、プロの選手など見てみると、純粋なSGシューティングガードと呼べる選手は多くありません。ゲームメイクができればPGポイントガードを兼ねる事ができますし、ある程度の体格があればSFスモールフォワードを兼ねる事ができてしまいます。


 じゃあ結局SGシューティングガードって何なんだよという感があります。

 筆者もこの問いには長いこと悩んでいました。

 何をもって「いかにもSGシューティングガードだ」と考えればいいのか?

 数年考えて筆者が出した結論を申し上げましょう。

 SGシューティングガードとは、遊撃手です。


 繰り返し申し上げていますように、バスケットボールにおけるオフェンス戦術の本質は「得点期待値の高いシュートを撃つ事」です。

 当然ながらゴール付近でのシュートこそ得点期待値がもっとも高いため、通常、最優先で撃つべきはゴール下のシュートです。いわばこれがオフェンスの王道であり、ゴール下で戦えるだけの体格と技術を持ったFフォワードCセンターは、行けそうならば優先的にこれを狙います。

 が、ディフェンス側はなるべく得点期待値の高いシュートを撃たせないようにします。

 そのためオフェンス側がゴール下シュートを狙えば狙うほど、ゴール下の守備は厳しいものになっていきます。

 そこで活躍するポジションこそSGシューティングガード

 PGポイントガードのように司令塔としての役割を担わないぶん自由に動き回れる特性を活かし、しかしFフォワードCセンターのようにゴール下という主戦場に真っ向から突っ込まず、ディフェンスの警戒が甘い場所をついて得点する事。これがSGシューティングガードの役割です。

 PGポイントガードSFスモールフォワードと求められる能力が似通っている部分こそありますが、ここには明確な役割の違いがあります。


 そのような役割を担うため、SGシューティングガードに求められるのはスピードとシュート技術、そして絶え間なくコート上を動き回れるスタミナです。

 ドリブルでディフェンスの急所へと素早く切り込み、あるいはディフェンスの視界を避けて絶好のシューティングスポットへ移動してパスを貰い、鮮やかにシュートを決める。これがSGシューティングガードらしい点の取り方です。

 ゴール下の主戦場を避けて立ち回る事が多いため、必然的に中~長距離のシュートが多くなる傾向になりがちです。SGシューティングガード=3Pシューターというイメージが強いのはこのためです。

 ただ上述のように、3Pシュートを撃つ事それ自体が目的というわけではありません。あくまでもそれは「ゴール下でイージーシュートを撃てない状況において、比較的得点期待値が高いシュート」だから有効なのです。

(例外はあります。残り時間5秒で3点差で負けていて、3Pシュートでの一発同点に賭けるしかない時とか)

 また人によっては、3Pシュートを不得意とするSGシューティングガードもいます。スピードを活かしてディフェンスをかわしてからの中~近距離でのシュートを得意とするスラッシャータイプがその典型例と言えます。こういった選手はSGシューティングガードでありながら3Pシューターではないですが、素早くディフェンスの急所を突いてゴールを狙うため、遊撃手としての役割は充分に果たせると言えます。


 そして、シュータータイプにせよスラッシャータイプにせよ、こういった"遊撃"的なオフェンスは、ただ点を取るというだけに留まらない効果があります。

 ガッチリとゴール下の守りを固めていたらロングシュートで点を取られた、あるいは視界の外からの奇襲で点を取られたりすると、ディフェンス側はしてやられた記憶から、どうしても注意がそちらに向いてしまいます。

 つまり、ゴール下の守備がゆるくなります。

 それはすなわち、ゴール下のイージーシュートのチャンスに繋がります。

 そう、SGシューティングガードが主戦場を避けて点を取る事は、次回以降のオフェンスにおいて、より得点期待値の高いシュートを撃ちやすくするための布石としての効果を伴うのです。


 総括しましょう。SGシューティングガードとは、

 ・シュートが上手くて

 ・脚が速くて

 ・絶えず動き回れる事により

 ・ディフェンスの注意が向いていない場所から得点する事ができ

 ・結果としてゴール下からディフェンスの注意を逸らし、後続のオフェンスを容易にする役割である

 と言えます。


 バスケ漫画に出てくるSGシューティングガードを見てみると、スラムダンクの三井寿、DEAR BOYSの三浦蘭丸、黒子のバスケの緑間真太郎、あひるの空の車谷空と、そうそうたる顔ぶれの3Pシューターが並びます。

 ですが彼らも単なるシュート砲台というわけでもなければ、3Pシュートで得点する事それ自体を目的としたプレイのためにSGシューティングガードというポジションが存在するわけでもないのでした。

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