大黒柱! C(センター)

 なんだかんだ言ってバスケットボールは、デカい人がチームの中心になりやすいスポーツです。ならばもっとも体格に優れた選手のポジションが重要でないわけはありません。

 そんなCセンター編です。


 Cセンターは通常、もっとも身長・体格に優れた選手が担うポジションです。

 一般的な基準として、県大会レベルのチームなら中学女子でも170cm前後、中学男子で180cm前後、高校男子で185cm以上ぐらいは普通にあります。プロの世界になるともっとエグい事になり、Bリーグの日本人選手で195cm以上、NBA選手になると平均210cmぐらいあります。

 この数字だけを見ても、バスケットボールにおけるCセンターというのは、人並外れた体格を持つ"選ばれし者"のポジションだという事が克明にわかるでしょう。聖書スラムダンクからの引用ですが、まさに「どんなコーチでもデカくしてやる事はできない」のですから。


 そんなCセンターの役割は、ゴール下を中心としたインサイドの攻防を担う事です。

 ゴール下は、フリーでシュートを撃てれば「最高の得点期待値のシュート」になる場所です。無理矢理気味な体勢から撃ってもまあそこそこ決まります。

 だからこそ、それを相手に撃たせないようゴール下を堅守する必要があります。逆に言えば、ゴール下でディフェンスを突き破って得点できるような選手がいれば、試合の趨勢は一気に有利な方へと傾きます。

 それらを誰がやるのかと言えば、一般的には、もっとも身長とパワーに優れているはずのCセンターです。

 ゴール下で簡単にシュートを撃たせない事は、まともな試合を行うための大前提のようなものであり、それを支えるCセンターはチームの大黒柱とも表現されます。


 ただし、これはやや古いバスケットボール戦術理論に基づいた考え方です。

 デカくてパワフルなCセンター同士がゴール下でガツガツぶつかり合って攻防の主役となるよりも、ゴール下にスペースを作ってドリブル突破からのイージーシュートを狙ったり、ディフェンスの注意をゴール下に引き付けたところでアウトサイドにパスして3Pシュートを撃つなどした方が、得点期待値の高いシュートが撃てる……というのが現代的なバスケットボール戦術です。

 PFパワーフォワードの項でも述べたように、近年では「デカくて上手い選手はPFパワーフォワード、デカくてゴツいだけの選手はCセンター」というように棲み分けられる傾向が顕著になってきており、Cセンターにとっては冬の時代とも言えます。


 では、Cセンターは必要ないのでしょうか。

 デカくて上手いPFパワーフォワードタイプのビッグマンが二人コートに出ていれば、Cセンターはいらないのでしょうか。

 そんな事はありません。Cセンターは滅びない。

 ただ、一般的にPFパワーフォワードタイプの選手が持たない強みで勝負する必要はあります。


 現代バスケにおいてCセンターPFパワーフォワードに求められる要素の違いとは何でしょう。

 PFパワーフォワードの項で説明した通り、現代ではPFパワーフォワードはデカくて上手い選手のポジションです。彼らがPFパワーフォワードとしてプレイする事を好むのも、ひとえに"上手さ"を活かせるポジションであり、言い換えれば泥臭い仕事に専念しなくて済むからです。

 CセンターPFパワーフォワードと差別化されるべき点はここにあります。

 純粋なCセンターは一般的に「デカい、強い、遅い」という存在であり、得点期待値の高いシュートを撃つための立ち回りに長じているとは言えません。ですが、リバウンドやスクリーンプレイ、そしてゴール下の守備といった、体を張ってチームを支える仕事にもっとも適性があるのはこういった選手です。


 つまり現代バスケにおいて、Cセンターに求められるのは献身性です。

 自分一人が華々しく活躍するわけではない、むしろ味方を活かしチームを支える役割を、誰よりも体を張って実行する事がPFパワーフォワードとの差別化に繋繋がります。

 特にディフェンスにおいては、Cセンターの守備力はチーム全体の守備を支える効果があります。通常もっともゴールに近い位置を守るCセンターは、ゴール下へと攻め込んできた相手を水際で食い止める最後の砦となります。これに優れた選手は"ゴールを守る者リムプロテクター"などとも呼ばれ、チームの守護神としての役割を担います。

 逆にオフェンスでは、スクリーンを仕掛けて、味方が点を取ろうとする動きをサポートしたり、ハイポストでディフェンスを引き付けつつ味方のアクションを促して、ディフェンスを崩すきっかけを作ったりといった仕事をします。

 また近年では、相手チームのリムプロテクターをゴール下から遠ざけ、味方が攻めやすいスペースをゴール下に作るため、味方の動きに合わせてゴール下を譲る立ち回りも近年では必要とされています。

 もちろんこれには例外があって、ゴール下の真っ向勝負で高確率で得点できるCセンターは、現代でもチームの最大の得点源ファーストオプションになりえます。ただそこまで圧倒的に強い選手はほとんどいません。NBAでかつてこれを成し遂げていたシャキール・オニール選手などは、216cm156kgの肉体を持つ、まさに人間重戦車でした。逆に言うとそれほど飛び抜けた体の強さがなければ、シンプルなゴール下アタックだけでチームの得点王になるのは難しいと言えます。


 ただ、Cセンターが得点を担う場面も当然ながらあります。

 特に顕著な例は、ミスマッチが発生した時です。

 ディフェンス側は、スクリーンプレイへの対応や、抜かれた味方をカバーするヘルプディフェンスによって、本来のマーク対象とは異なる相手の守備に着く場合があります。

 特にCセンターはゴール下の守護神としての役割を担うため、味方が抜かれた時には率先してヘルプに入る事が少なくありません。

 この際、オフェンス側のCセンターは、ディフェンス側のCセンターが即応できない位置にいる事で、チームとしてのオフェンスのフィニッシュ役となるシュートを任される場合が少なからずあります。

 無論ディフェンス側も、他の選手がカバーに入ろうとするでしょう。しかしCセンターにとっては、ゴール下でボールを持った状態でCセンター以外の選手にディフェンスされてもそう怖くはありません。何せデカくて強いCセンターゆえに、ゴール下での真っ向勝負なら分があります。

 こういう状況では、Cセンターこそがもっとも得点期待値の高いシュートを撃てる存在になります。


 では総括します。Cセンターとは、

 ・リバウンドを主担当として取りに行き

 ・ゴール水際のディフェンスによって抜かれた味方をカバーして守り

 ・オフェンスにおいては味方が点を取りやすくなるようガタイを活かしてサポートし

 ・ゴール下でミスマッチが生まれた時には確実に一本決める役

 です。


 バスケにおいてデカさは強さです。機動力と得点期待値を重視する現代バスケットボール戦術も、よくよく読み解いてみれば、いかにCセンターの守備力という脅威を避けて点を取るかという立脚点から始まったものだとわかります。

 だからこそCセンターは滅びない。

 今はCセンターにとっては苦難の時代ですが、ひょっとしたら10年や20年後には、現代バスケ戦術を駆逐してしまうほどにCセンターがバスケの主役に返り咲いているのではないか……などという事を筆者などは夢想したりするのでした。

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