頭部に位置する劇場

安良巻祐介

 

 人の頭の中には誰しも街が一つあり、そこには当然ながら住人というものが何人も住んでいる。

 それは別に多重人格だとか内なる己だとか仮面だとかいう話ではなく、本当にただ街があって人が住んでいるというだけの話である。では我々はいかにしてそれを知るか。寝ている時の夢で見るのである。寝ている時に見る風景というのは実は決まっていて、全てこの頭の中の街の中にある景色に限られるのである。だから色々な種類の景色を夢に見るひとはそれだけ街が広く大きいのだ。それは一見よいことのようにも思われるが、必ずしもそうではない。街が大きいとはすなわち街に巣食う者たちもそれだけ多いということだからだ。

 同じ理由で、夢の中で出会う人たちは、皆この街の住人であるから、見知った者や家族のように見えたとしてもそれは嘘だ。顔の似た街の住人がそれらしく振る舞っているだけだ。毎晩毎夜人は己の知らぬ街で己の知らぬ人々と会う。そして理由もわからない劇のようなものを演じている。何と恐ろしいことであろうか。

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頭部に位置する劇場 安良巻祐介 @aramaki88

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