感濃小説

吟遊蜆

感濃小説

 ある夜仕事から帰宅すると、ドアの前に透け感のある服を着た抜け感のある中年男が立っていた。男は見るからに生き感に欠け、その夢感そしてうつつ感の強い表情から読み取れる化け感は、まるで死に感に包まれた幽霊のようでもあった。それにしては左手に持った提げ感のある大きな紙袋が、不自然なまでの揺れ感を伴ってその有る感を主張していた。


「買ってもらいたいものがあるんです」


 私の顔をチラ感のある目線で捕らえるなり、たわわな生え感のある髭を持つ男は張り感のない声でいきなりそう言い放ったのだった。雲ひとつない夜空には、照り感のある星の数々がこれでも感を隠そうともせず瞬いていた。


 私はその見知り感のない男に冷や感のある視線を浴びせつつ、「結構です」と即座に断りを入れた。しかし男はどういうわけか、笑み感のある表情を皺感の深い顔面に浮かべて一気に距離を詰めてきたのだった。男は私の「結構です」を、にべ感のない拒絶ではなく、ウェル感カム感あふれた受容と捉えているようだった。


 二人の対話の間にそれじゃない感を引き連れて生じた致命的なズレ感に気づいた私は、次に表現を変えて、今度は来るな感を全身に漲らせながら「あ、大丈夫です」と言った。だが男はさらに迫る感を出して体を寄せてきた。むしろ「結構です」のときよりもグイ感のあるステップに、背筋をゾッ感が走った。


 これは完全に私の抜け感から出たミスであった。物事を断る際には、より曖感昧感のない、明ら感の強い言葉をもって拒絶すべきなのだ。


 私はそこで思いきって、精一杯のズバリ感を声に漲らせて「まにあってます」という究極の無理感を発する言葉を口にした。売りつけられる物がいったい何なのかもまだわからぬモヤ感に満ちた状態でこの言葉を放つのは、かなりあり得な感が強いように思われたが苦肉の策である。


 すると頭髪にハゲ感とズラ感と蒸れ感をあわせ持つその男は、私のコートをガシ感に満ちた手つきで掴むと、そのバレ感をあえて強調するように、頭部を私の顔に唐感突感をもって急接近させ、「まにあって良かったです」と嬉しそうに答えたのであった。 


 ここに至って、私は事なかれ感を優先した言葉による拒絶を諦め、慌ててカバンから束感のある鍵を取り出すと、それを冷や感のある鍵穴へとズボ感を伴って差し込み、ギィ感のある音を立てつつ玄関のドアを開けると、家の中へそそくさ感をもって逃げ込むという暴挙に出た。


 そうして家に入ると、打ち感のあるノックや押し感の強いインターホンの音こそ聞こえないものの、ドアの向こうにはたしかに人がすっく感をもって立っている気配がずっと感を伴って続いているのだった。


 玄関先に立つ男が持っている、提げ感と揺れ感と有る感を存分に漂わせる紙袋の中には、実のところツナ缶とシャケ缶とサバ缶が詰め込まれていた。私はそんなことには微塵も気づくことなく、今さっき交わした謎感の強い対話を忘れるために、冷や感のある冷蔵庫から取り出したツナ缶とシャケ缶とサバ缶をつまみに、シュワ感あふれるビールをたらふく飲んだ。


 そう、私はたしかに、まにあっていたのである。

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