エピローグ
つっこめ! 私たち!
大会から一週間ちょっとたった日曜日、私はまた秘密体育館に来ていた。
ここで練習をするの、すっごく楽しみ。今はパス練習。
「もっと早く! もっと正確に!」
コートわきから
私とボールを投げ合っているのはツグミちゃん。さすがにうまい。
あれからいろいろ変わった。戻った、っていう方がいいこともあるけど。
まず、ツグミちゃんがクラスに帰ってきた。今は前と同じように明るい顔を見せてくれている。
学校から出たツグミちゃんは前と違って、メイド見習いとしてマオさんたちと暮らしている。孤児院の人たちともやり取りできるようになって、王国で暮らしていたころの思い出話を私にしてくれることもある。
一方、大会をふっかけてきた
海道君やマオさんによると、元大臣は何十年も年を偽ってきたことで王国から追い出されたらしい。大仁君は今も元大臣と一緒にいるのかもしれない。
私は大仁君と仲が悪かったから、心配なんかするつもりはない。でも、元大臣から利用されていたって考えれば同情できる。うまく自立してくれればいいと思う。
それと、元大臣が作らせたうるう年関係の法律は王国でナシになったらしい。元大臣の手下だった政治家をお父さんがドッジでやっつけたからだとか。あまりにも無茶苦茶な決まりだし、当たり前だ。
私は、夢のドッジチーム設立に向けて動き始めた! といっても、今のところメンバーはツグミちゃんと海道君の二人だけ。これからもっと数を増やして、大会に参加したりしたい。
「姫、大変です!」
マオさんが駆け込んできて、私たちは練習を中断した。
「どうしたの?」
「試合の申し込みです!」
「ええっ? まだメンバー集まってないのに?」
「それが、トンデモドッジの方みたいで。足りない分はドッジロイドやドッジザルでいいかと」
「また?」
大仁君はいなくなったけど、挑戦の申し込みはいくつも来ている。王国から日本に引っ越してきていた人、わざわざ王国からこっちに来る人、と。
「どんな試合?」
私はマオさんから挑戦状を受け取って、目を見開いた。
「ジェットコースタードッジ……すごそうだね……」
「普通のドッジがいいって思う?」
ツグミちゃんに聞かれて、私は首を横に振った。
「普通のもいいけど、普通じゃないのもOK!」
どんな勝負も受けて立つ! 私には心強い仲間たちがいる!
海道君は、少しだけ笑っていた。
「それでこそ姫だ」
私、姫の自覚みたいなものが薄いんだけどね。王国に帰ろうって気も全然ないし。
「試合の前に決めておくことがあるよ。チーム名とか当てたときのサインとか試合前の号令とか! ユニフォームも作らないと!」
ツグミちゃんも海道君もあきれ顔をしたけど、そこはゆずれない。
「まず、チーム名……私、いろいろ考えてたけど決められなくて……」
「立ち上げたときのメンバーがみんなこれってことから考えたら?」
ツグミちゃんが取り出したのは、イノシシの印が付いたお守り。
「そっか。私たち三人とも亥年だから……イノシシって、英語でなんていうの?」
海道君が携帯電話で検索して、見せてくれた。私はすぐにピンと来た!
「これだ! ワイルドボアーズ! どんな敵にでも突っ込んでいきますって感じで強そう!」
「イノシシは突進するばかりで危なっかしそうだけどな」
ちょっと海道君、そういう見方をしなくてもいいじゃない?
「でも、かっこよくはあるわね。ワイルドボアーズ」
そうそうツグミちゃん、かっこいいからよし!
「じゃあ、次は当てたときのサインと試合前の号令のやり方を!」
私は、ずっと夢に描いていたことを二人に一つ一つ話した。
完
つっこめ! トンデモドッジ 大葉よしはる @y-ohba
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