7-7
優勝は、私たち羽場チーム!
そう決まった後の表彰式はすっごく簡単っていうか、汚い字で書いた表彰状をほいっと手渡すだけ。大仁チームが優勝だったら違ったんだろうか。
納得がいかないけど、この際どうでもいい。私の目的は優勝することそのものじゃない。
「大仁君……約束どおり、ツグミちゃんを解放して」
私は大仁君にきっぱりといった。大仁君はイライラした顔――なんかじゃない。いつもどおりのニヤニヤした顔。見ている相手は私じゃなくて、ツグミちゃん。
「お前……おれを裏切ったりして、どうなるかわかってるんだろうなぁ? お前がいた孤児院、パパから助けてもらってるんだろ?」
ツグミちゃんは、だまってうつむいてしまう。私はツグミちゃんのこんな姿を見たくないからがんばったのに。
「待て。終わった試合のことをいっても仕方ない。約束どおり、うちから出してあげよう」
元大臣は、余裕に満ちた顔で大仁君を止めた。
「山瀬ツグミ君。わしも孤児院の方々が悲しむようなことはしたくない。そこでだ」
目配せすると、黒いスーツの人が出てきた。書類を広げてみせる。
私もツグミちゃんも、居合わせて書類を見た人も、みんなおどろいた。
「婚約届……?」
目を見開いているツグミちゃんの横で、私が一番上に書いてある言葉を読んだ。元大臣だけは平然としたまま続ける。
「ツグミ君が試合の結果として自由になるのは構わない。しかしわしは孤児院とのつながりを強くしたくてね……君が息子のところに自ら来てくれるなら、今までどおりやっていくつもりだ」
何それ! ツグミちゃんがお嫁さんにされるってこと?
ツグミちゃんは立ちすくんでしまって、何も答えられない。大仁君のところなんか行ったらどんな目にあわされるかわからないのに。
「それとも」
元大臣の目が、ツグミちゃんから私に動く。
「姫、あなたがご友人の身代わりになりますかな?」
そう来たか! 大仁君がバカ笑いしているなか、私は頭が重くなったように感じていた。
大仁君のお嫁さんなんて嫌すぎ! でも、ツグミちゃんを見捨てるのも嫌だ。
「どうしますかな? 早く決めないと、わしは孤児院の援助打ち切りを決めてしまいますぞ?」
元大臣は、またニヤニヤした顔になっていた。私たちがうろたえているからだ。
「クズだな」
松葉杖をついた海道君が吐き捨てた。元大臣も大仁君も顔色を変えない。
次に口を開いたのは、ツグミちゃんだった。
「これ以上、ココに迷惑をかけないで……かけないでください」
ツグミちゃん、こんな人たちに敬語なんか使わなくていいよ。
「ならば、君が来るかね? うちの息子は君を子分や手下と呼んでいたが、わしの威を借っているに過ぎない。君はわしの道具……それを自覚するべきだ」
元大臣が鼻で笑う。本当はツグミちゃんを息子の嫁にしたいなんて思っていないだろうに。でも、このままだとツグミちゃんが……
考えろ! 私は頭を一生懸命に働かせた。
放っておいたら何もかもムダになる。私が試合でがんばったことも、ツグミちゃんと海道君が駆けつけてくれたことも、ライガたちやリリナたちとわかり合えたことも。
答えを求めるように、辺りへ視線を動かす。
居合わせた人のほとんどは、あまりのことにどう反応していいかわからない様子。
ライガは汚いものを見たような目。ミイはオロオロした顔。
リリナはギリギリと歯ぎしりしている。ショウはいらついた瞳で元大臣たちをにらんでいる。
マオさんは両手を握りしめて、お祈りをしているようにも見える。持っているものはお守り? 金色のサルの印が付いていて、うるう年が何とかっていっていたっけ……
私は稲妻を浴びたような気がした。
そういえば、試合中に拾ったものがあった。あれに付いていた印は。
私は、ポケットに入れたまま忘れていたものを取り出した。
「元大臣。試合中に、これを落としたよね?」
小さな布袋。元大臣は、それを見るなり青ざめた。試合の最後に当てられたときでさえ、ここまでの顔をしていなかったのに。
「さ、さあ……知りませんな」
「本当に? この、ヒツジのお守り。王国には干支のお守りを持つ習慣があるでしょ」
開けると、中から出てきたお札に「大仁ゲン」と書いてあった。元大臣の名前だ。
「元大臣、未年なんだね」
マオさんが口に手を当てておどろいていた。私はうなずく。
「うるう年は四年に一度。うるう年は四の倍数の十二年でワンセット。うるう年のときの干支は決まってて、ヒツジは違うよね? うるう年なら、お守りのししゅうが金色のはずだし」
どよっと、辺りがざわめく。
「うるう年生まれじゃないってことは、本当はいくつ? いつからごまかしてたの? まさか、子どものころから? 年下の人にまじって試合してたの?」
たじろいでいる元大臣を、審判たちが取り囲む。
「年齢を偽って試合に出ていたのなら、他の出られる選手から権利を奪ってきたということ」
「正々堂々とした勝負ならともかく、不正な手段で奪ったのなら……」
元大臣は、あぶら汗をだらだらと流していた。
そばにいる大仁君もふるえている。これからどうなるか想像しているんだろう。私も海道君から聞いたことを思い出した。
「前にもそういう人がいたらしいね。嘘をついたときからの勝ちをナシにされて、勝ったことで手に入れたものを全部没収されて、王国から追い出されたとか」
「ち、違う! わしは……」
元大臣はまだ何かいおうとしていたけど、審判たちから両わきをつかまれた状態で連れていかれてしまった。王国の審判、警察よりきびしい罰を与えることもできるんだっけ?
「パパぁ!」
大仁君が追いかける。大仁君一人だけが。
ここにいるのはみんな大仁君たちが集めた人なのに。そのくらいの仲間意識しかないのか。
「元大臣のやつ、引き際を誤ったな」
海道君は肩をすくめようとしたけど、松葉杖をついた状態じゃやりにくかったので鼻で笑う。
「捨てゼリフでもはいて逃げていればよかったんだ。それならココに反撃されなかった」
うん。私、拾ったお守りのことなんか忘れちゃっていたし。
ツグミちゃんは、元大臣たちがひどい目にあいそうなのでざまあ見ろって顔――なんかじゃない。あわてた顔。
「元大臣がいなくなったら、うちの孤児院は……」
悪い人でもお金を出していたことは間違いない。
「ツグミちゃん。そのことなんだけど、大人の話は大人でどうにかしてもらわない?」
「心配するな。もう手は打ってある」
海道君がサラッといったとき、そのポケットで音楽が鳴り始めた。携帯電話? 取り出しにくそうだったので、私が代わりに受けた。
「もしもし。海道君の代理で……リトルスター学園?」
「ちょっと、ココ……」
ツグミちゃんが顔色を変えたので、私はすぐに携帯電話を手渡した。
「もしもし。あたし、ツグミ……シスター! 連絡できないんじゃなかったの?」
その顔がどんどん明るくなっていく。
「これからは、王様に援助してもらえる?」
海道君は、鼻で軽く笑った。
「孤児院が山瀬の弱みなら、元大臣から切り離してやればいい。それだけのことだ。山瀬がうちにフラフラ来た日、陛下に報告しておいたんだ。その日から陛下が交渉していたはず」
お父さんたちは『がんばれ』っていっただけだった。でも、試合以外では手助けしてくれた。
「ココを守るためならどんな手でも使うと、ぼくはいっただろう。陛下に頼み込むくらいする」
お父さんたちも『ココにはココの仲間がいるから大丈夫』っていっていたっけ。まったく、ナイスアシストだよ!
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