最終話 アホ淫魔、最後の晩餐!#5

「お願い、早く私の口に出して」

「よ、よし。じゃあ行くぞ」

 俺は右手に握ったそれを、正座し口を開けて舌を出すルフィーナに向け、手に力を入れて前後に動かす。同時に白濁した液体が、ルフィーナの口内のみならず顔や服に飛び散った。

「あん、もったいないわ」

 彼女は俺が出した白濁液を手で拭い、一滴も残さずに舐めとる。

「もっとちょうだい。キョーヤ」

「あぁ、お前がほしいならいくらでもやるよ」


 俺は2本目のなめこを手に取った。


「盲点でしたわ」

 戻ってきた姫城家のキッチンで、玲緒奈が感嘆の息を漏らす。

 俺が思いついた方法。それは実に単純で、なめこに含まれている魔力だけをルフィーナに飲ませるというものだった。


 このなめこは中心が空洞になっていて、そこに魔力が溜まっている。先端を少し切り、ルフィーナの口に向けて押し出してやればいいだけだ。彼女がほしいのは魔力であってなめこではない。


 ただ1つ問題があるとすれば、なめこや魔力の見た目のせいで、何だかいかがわしい気分になってくることだ。ルフィーナもそれを知っていてわざとエロい振る舞いをしてくるので、俺のなめこも成長してしまいそうである。

「ご主人さまぁ、早くザ○メンくださぁい」

「黙って口開けてろ!」

 そんなこんなで作業は終わり、ついにルフィーナの魔力は完全回復した。



「この辺でいいわ」

 時刻は夜8時。ルフィーナを連れて、俺と玲緒奈はあのなめこの群生地にやってきていた。


「―――――」

 ルフィーナが呪文を詠唱し始める。当然ながら日本語ではなく、俺と玲緒奈には何を言っているのか分からない。

 そのうち彼女の目の前が青く光りだし、徐々に円が形作られていく。中央に六芒星が描かれた、いわゆる魔法陣ってやつだ。


「じゃあな」

「お体にお気をつけて」


 そう言った俺と玲緒奈に、ルフィーナが振り返る。

「2人とも、そんな寂しい顔しないの。また来るわ。――キョーヤ」


 彼女が一歩、俺に近づいた。

 何だ、と訊き返す暇はなかった。


 俺の口は、ルフィーナの唇に完全に塞がれたから。


「まぁ!」

 玲緒奈の驚く声。

 ルフィーナはたっぷり3秒くらいそうしてから、ゆっくりと俺から離れた。

 キスの感触を確かめるように、親指の腹で唇をなぞる。


「今のはお礼よ。ありがとう、キョーヤ。またね」

 ルフィーナは振り返らず、円の中へと消えた。

「京也さん、きっとまた会えますわ。そうルフィーナさんもおっしゃっていたではありませんか」

「……そうだな」

 しかし俺の中にはぽっかり穴が空いたような、そんな気分が漂っていた。


 どうやら俺は、予想以上にあいつとの生活が楽しかったらしい。



 ルフィーナが帰ってから数日。

「ただいま」

 言ってから、彼女がもういないことに気づく。

「すっかり習慣になっちまってるな」

 ルフィーナと暮らしたのは3週間くらいだ。短い間のはずが、俺の生活には彼女がいるのが当たり前になっていた。

 その彼女はもういない。そう考えると、今までと変わらないはずのこの家が、ずいぶん広く、寂しく感じる。

「慣れなきゃな」

 靴が一足減った玄関を上がる。


「ちょっと、今のはヘッドでしょう!? 判定バグってるわ!」


 !?!?!?

 聞き慣れすぎた声が母親の寝室からして、慌てて廊下の奥へ走る。


「なによ、武器が強いからって調子に乗ってんじゃないわよ!」

 ばん、とドアを開く。そこにはゲームに向かってブチ切れるルフィーナの姿があった。

「ル、ルフィーナ?」

「あ、キョーヤ。お帰りなさい」

「ただいま――って、お前何してんだよ!?」

「C○Dよ。知ってる?」

 銃を撃ち合って戦うゲームか。FPSとかいうヤツだ。

「そうじゃなくて、何でお前がいるんだよ!」

「家出してきたの」

 早ぇよ! まだ1週間も経ってねぇぞ!


「あれから父と話したわ。けど、お互い譲らず話は平行線。そのうち喧嘩になって、私は人間界に旦那さんがいるって言っちゃったのよね。そうしたら、そいつと別れないならお前は勘当だって。だから私は、今度はしっかりと計画を練って家を出てきたのよ」


 その計画性はルフィーナの後ろに積まれた、ほどかれていない段ボールが語っている。衝動的な前回とは違い、今度は本気で家を出てきたのだろう。

「実家の使用人を使って、キョーヤが学校に行ってる間に運び込んだわ」

「人間界に旦那さんって――」

「キョーヤに決まってるじゃない」

 だよなぁ……。

「これからよろしくね。あ・な・た」

 自称俺の嫁は、笑顔たっぷりでそう言った。

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サキュバスメイド ~家出淫魔とドキドキ同居生活~ 桜火 @PinkRathian

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