エピローグ

もしもし? ああ、やっとつながった。念のため携帯おいておいてくれて助かったよ。音声認識って便利だな。ああ、そのもしもの事態だよ。あいつ、俺と死ぬ気だ。お前としても嫌だろ? 愛しの尋人君が死ぬなんて。俺はまあここまで来たら自分の命なんてどうでもいいよ。でもさ、どうにかあいつのことは助けてやれねえかな?

ああ、あんなこと言っておいてあれだけどさ。頼むよ。

そんでさ、あいつのこと、あとはよろしく頼めねえか?

命の恩人ってアドバンテージ、お前にとってもおいしいだろ?




























エピローグ


 暗闇だった。タオルで目隠しされて、両手両足を縛られる状況が、こんなにも苦痛だとは思わなかった。

 口に何度も何度も唇を重ねられ、舌を入れられる。

「ねえ、尋人君。なんであなたはそんなにかわいいの?」

 服はとうに脱がされ、全身の肌をさらしている状態だ。最早羞恥心よりも苦痛が勝っていた。

「明日からずうっと一緒だよ? 何も考えなくていい。素敵だね」

「……」

 俺は口元を緩め、にやりと笑う。

「……何がおかしいの?」

「いや、そろそろかなあと思って」

 ガシャン! とガラスの割れる音がする。皿とか、コップが割れた音の比ではない。パラパラとガラスの零れる音が近くで聞こえる。

「だ、誰!」

 雨口がそう叫ぶ。そして音の方向にドタドタと走っていった。しばらくしてだった。やってきたのは静寂だった。雨口のささやく声が聞こえない、穏やかな時間。ほっと肩をなでおろす。

 静かな足音が聞こえてきた。雨口のものとはまた少し違う、落ち着いたものだ。その足音がやがて俺の前に近づき、ぴたりと止まる。

「もうすぐ警察もくる、安心しろ」

 そのどこか野太くもたくましい男の声を聞くのは、随分と久しぶりだった。男は俺の頭をそっと撫で、目隠しをとった。久ししぶりに視覚に刺激が入り、暗い部屋であろうと目がくらむ感覚がした。

「久しぶり、鈴谷」

 細瀬川海はそう言った。「お前さ、自分のネットの履歴くらい消しとけよ? エロサイトとか見てるのばれたら大変だったぞ」

「それでいいんだよ」

 音楽プレイヤーのGPSを見てくれれば、ここまでたどり着いてくれると、信じていた。

「全く、危なっかしい奴だな」

 海はそういうと、両手両足の拘束を外し、両腕で力強く俺を抱きしめた。

「……お前、俺のこと絶対好きだろ」

 冗談ぶいて海にそういう。

「んなわけねえだろ気持ち悪い」

 そういうと海は俺の唇に自分の唇を重ねた。           おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トライアングル ろくなみの @rokunami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ