第2話

「お前なんか死んじまえっっ!!!」

「っ…。」


そんな物騒な会話が聞こえ、そしてその後に幾度も殴り蹴る音がする。

暫くして物音がしていた路地裏から『チッ』と舌打ちしながら質の良さげなスーツを着たサラリーマンが苛立たしげに出ていくのが見えた。


―――あの時の俺は何かに憑かれていたのかもしれない。


好奇心に押されるようにしてその路地裏を覗いて見た。いつもの俺なら絶対にしないし、見たとしても手なんか差し伸べたりしなかっただろう。…彼の眼を見るまでは。

路地裏には暴力を振るわれたと思われる痣や傷を付けた白銀髪の少女が居た。

所々土や砂利で擦れ汚れた服を緩めに着こなし、長い前髪の下から血を流し込んだような鮮烈な紅色あかいろが覗いている。

思わず、その紅色に見とれていた。

惚けていた俺に彼女は辛辣とも言える言葉を浴びせた。今思えば彼女なりの警戒だったんだろう。


「……なに。野次馬ならどっか消えて、邪魔でしかない。」

「え、ぁ、いやその…。」

「……なに? ハッキリしてくんないとこっちも迷惑…。」

「え、とあの…今日、俺ん所泊まりに来ませんか!?」

「…………はぁ?」


―――うわうわうわ何言ってんの俺!? 初対面でいきなりこれなのかよ、ほら引いてるじゃんか!


自分でも予想してなかった言葉が口から飛び出ておろおろする俺を見て、彼女は小さく嘆息した。

そしてすっと手を差し出してくる。

なんだろう? と首を傾げると少しイラッとしたように乱雑な口調で言われる。


「……お金。買いたいんなら、払うのが筋だろ。ひと晩一万」

「あ、あぁ、お金…。払うから、家、来てくれ…る?」

「……分かった」


一万円札を渡しながら言うと彼女は何かを諦めたようにすんなりと頷いた。

それが俺ら二人の秘密の始まり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨雪 〔俺とアイツの秘密〕 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ