新宿歌舞伎町の『神渡ビル』には、さまざまなテナントが入っている。入院したペットが一夜で治ると評判の動物病院、プール、図書館など。中でも十階のフィジカル・フィットネス・サロンは、人間のアスリートにも、人間界で暮らすあやかし達にも人気がある。隠れたパワースポットなのだ。
十階でトレーナーとして働く巽総司は、実は仙人だ。訳あって身体から魂魄を抜く方法で尸解仙(しかいせん)となった彼は、由緒正しい妖狐の営むこのビルで、人間とあやかし達と一緒に暮らしている。崑崙の神々から使命をうけた、彼等の目的はーー。
◇
弱きを助け悪を挫く、霊気功を使う総司が、なんとも頼もしく格好いいです。惚れっぽい地狐(妖狐)の朝凪や雪女など、人化したあやかし達とのやりとりも楽しい。中国の神仙や日本の民俗に関する話題がお好きな方も、興味を惹かれると思います。
ストレスなく読める、現代あやかしファンタジー(ちょいオトナ向け)です。
物語はまだ完結していないけれども、レビューをば。
新宿の一角にある「神渡ビル」は飲食店やプールなどが敷設された雑居ビル。
一見ごく普通の繁盛した、人の出入りの多いビルに見えるが実は秘密あり。
実は霊力を持つ狐、あやかしの類がせっせと労働に励んでいるのだ。
巽総司はビルを根城に水陸両用……じゃなかった、人間とあやかし双方を顧客とする「トレーナー」であるが、実は少年時代、ある事件によって「尸解仙(しかいせん)」となった身。仙人としての修行を積みつつ、人間やあやかしの相談に乗ったり治療したり。
読みどころはいろいろあって、中国や日本の神話・伝説が好きならクスリとさせられる小ネタが一杯だし、神渡ビルのホワイト企業ぶり、暗躍する影の陰陽師一家、殺生石、スイーツ大好き女神さま、ビルのオーナーの「思い」……それらに笑ったりしんみりしたり、ハラハラしたり。
なぜ総司が「モテる」のか、なぜビルの従業員はせっせと働くのか、人間を助けるのか……ひとつひとつ理由づけがあって面白い。
そして、あやかしも時に悩まされる現代日本社会の諸相。
手堅い現代ファンタジーをお探しの方にご一読をお薦めします。