#7

 今までと同じような通路を五分程歩いて交差点のような場所に出る。

 太い通路が左右に伸びていた。

 構造も今までの通路とかなり異なる。

 両脇に幅一メートルくらいの歩道。

 柵で仕切られた中央部分には鉄の長い棒が四本、左右に走っている。


「線路だわ、これ」

 アキコ姉がちょっと驚いたような声で言った。


「線路って何ですか」

「昔、人や物を運ぶのに使われた列車という物専用の通路よ。作業用のEVなんかよりも遙かに大量のものを遙かに速く運ぶことが出来るの。昔の本に出てきたわ」

 アキコ姉はよく昔の本の複製とかを読んでいた。

 今は無くなった物の話をいろいろしてくれた。

 これはそんな失われたものの痕跡の一つだろうか。 


「近くに寄って見てみていいですか」

「止めた方がいいわ。電気が通っているかもしれないから」

 なるほど。


 あと問題がひとつ。

 左右どっちに行けばいいのだろう。

「左右どっちがいいと思います?」

 ついアキコ姉に聞いてしまう。


「私は左がいいと思うわ。よく見てみて」

 そう言われて左右を見てみる。

「線路の脇に数値が書いてある板があるわ。左が583.2、右が左が583.3。だから左に行けば起点に近い方にいける可能性が高いと思うの」

 なるほど。

 かなり遠くにあるけれど確かにそう読める。


「流石アキコ姉。僕は気づきませんでした」

 やっぱりアキコ姉は凄いな。

 僕ももうすこししっかりしないと。

「気づいたのはたまたまよ。それじゃ左でいいかな」

「ええ」

 そんな訳で僕らはまた歩き出す。


 その後はひたすら同じ感じの通路が続く。

 変化が乏しいというか全く無い。

 それにそろそろ眠くもなってきた。

 元々就寝時間前に歩き始めたのだ。

 でもアキコ姉は疲れた様子も眠そうな様子も無い。

 だったら僕ももう少し頑張った方がいいだろうか。


「もう少し行きましょ。まだちょっと遠いけれど非常避難所って書いてあるし」

 僕の様子に気づいたのかアキコ姉はそんな事を言う。

 言われてみると緑色の見慣れない標識に矢印と1,500いう数値が書いてある。

「あの緑の標識がそうですか」

「ええ。あれは昔の絵記号みたいなものなの。あの緑のマークが示すのが非常避難所よ。そこまで行けば休む場所があると思うわ」

「アキコ姉は色々知っているんですね」

 そんな事は授業でも習っていない。


 アキコ姉は軽く頷いて、そして口を開く。

「大したことじゃないわ。これも昔の本に載っていたの。戦争が起きる前のずっと古い本の複写よ。一時期そんな文書ばかり読んでいたの。あの閉鎖された団地コロニーの外へ行ってみたい、外に出たいと思って。

 外に出ることを何度も考えたたし夢をみた。閉じ込められている感じが嫌で。団地の外の事も色々調べたし、持ち物とか揃えたりもして。

 でも結局、自分一人では出る勇気が無かったの。ミナト君のおかげだよ、こうして外に出ることが出来たのは。

 だからありがとう、ミナト君。私をこの散歩に誘ってくれて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る