#6

 第一居住区を通り、壊れた非常扉からまた通路に出て、発電所区画の横を通る。

 この辺りはまだ団地コロニーの図面に載っている。

 でもここまで来る人は多分いない。

 もはやこの辺りの機器について知っている人はいない。

 全自動化され故障修理も自動で行う機械群に全てを任せるだけだ。

 最低限の照明だけは灯っている通路をアキコ姉と二人で歩く。


「ここはまだうちの団地コロニーなのかな」

「まだ図面に載っている範囲です。もう少し先に隔壁があって、そこから先が団地コロニーの外になります」

「ミナト君はこの辺りには来たことがあるの?」

「その隔壁までは。だからそこまでは大丈夫です」

「凄いな、良く知っているんだね」


 そう言われると少し恥ずかしい。

 特に役に立つだろうと思って来たわけじゃない。

 単に知らない場所をこっそり探検するのが楽しかっただけ。

 他の人は知らない場所を知っているという優越感もある。

 でもまさかアキコ姉とここを歩くとは思わなかったけれど。


 結構歩いてようやく隔壁の場所。

 ここの隔壁は横に非常扉があって、そこを通れる。


「ここで団地コロニーは終わりです。ここから先、通路はあるんですけれど何処へ通じるのかはわかりません」

 そう行って僕は扉を開ける。

 向こう側に同じような通路が続いているのが見えた。


「ありがとう。そこでここから出る前に、質問ひとついい?」

「何ですか」

 僕はアキコ姉の方を見る。


 アキコ姉は僕の真っ正面に立って僕の目を見た。

「この非常扉は片方しかドアノブが無いわ。だからこっちからは開けられても向こうからは開けることが出来ない。つまり出たらもう帰れない。

 ここから先はどうなっているかわからない。生きていける環境に辿り着けないかもしれないの。

 でも今だったらまだ戻れるよ。引き返せばいつもの生活に戻れるわ。ミナト君は私と違って来年以降も生きられるだろうし。

 本当にここを出ていいの。もう一度ちゃんと考えて」

 黒い大きい瞳が僕に問いかける。


 アキコ姉が言いたい事はわかる。

 ここを出れば今まで守られていた食事とか安全な寝場所とか全てが無くなるのだ。

 でも僕はもう自分がどうしたいかわかっている。

 アキコ姉を連れ出してここまで来たのは正直なところ勢いが半分以上。

 でもここまで来てアキコ姉と話した今、自分がどうしたいのかはっきりわかった。

「僕はアキコ姉と一緒にいたいんです。アキコ姉にとって迷惑でも」


「ありがとう」

 ふわっと柔らかくて熱い感触が僕を包む。

 僕はアキコ姉に抱きしめられた。

「私もよ。ミナト君と一緒にいたい。ずっと」


 自分のではない匂いがちょっとしたような気がした。

 酸っぱい系かな、よくわからないけれど嫌いじゃない匂い。

 僕もアキコ姉をちょっと軽めに抱きしめる。

 熱くて柔らかくて気持ちいい。

 このままこうしていたい位に。

 でもそろそろ行かないと。

 アキコ姉と僕とで生きられる場所を探しに。

 そこまで辿り着けるか、そもそもそんな場所があるかもわからないけれど。


 僕が腕から力を抜くと同時にアキコ姉も腕を放して離れる。

「行こうか。私達の場所を探しに」

 僕は頷いて、そして非常扉を開けた。

 ここからは団地コロニーの外。

 今までの規則ルールはもう通用しない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る