#5

「わかったわ。それじゃ準備をしてくる。用意できたら声をかけるね」

 アキコ姉は自分のブースへ。

 僕も自分のブースに入り荷造りを始める。


 学校通学用の背負いカバンに下着類とか服を詰める。

 本当はもっと大きいカバンがあればいいのだけれど使えるカバンはこれだけだ。

 でも配給制で最小限度しか無い衣服はあっさりこのカバンに入ってしまう。

 あとは非常用の食糧缶と乾パンと食事で残したブロックと。

 水筒代わりにプラボトルもある分は入れておこう。

 これでカバンは目一杯。

 あとは寝具のタオルケットを畳んで紐でしばってカバンにくっつける。

 これ一枚あれば何かの役に立つだろう。

 寝場所の代わりには少し薄くて寒いかもしれないけれど。


 あとはあの拾ったコロニーの図面を印刷して折りたたみ胸ポケットへ。

 取り敢えずここを出るまでは役に立つだろう

 あと思いついてあの拾った記録媒体をカバンの内ポケットに入れる。

 これはまあ、御守りみたいなものだ。

 最後に非常用の懐中電灯をカバンの外ポケットに入れれば終わり。

 元々個人の持ち物なんてそんなにある訳じゃ無い。

 教科書と本と枕、それに敷き布団を置いていくだけという感じだ。


 ブースの外に出るとアキコ姉がプラボトルに水を汲んでいた。

 僕もそれに倣ってプラボトル四本に水を汲む。

「案外簡単なものね。荷物もそんなに無かったし」

 アキコ姉の装備も見た限り僕と同じ感じだ。

 配られている物が共通だからしょうがないけれど。


「それで何処へ行くか、宛てはあるの?」

「この団地コロニーから出ようと思います」


 僕は胸ポケットからあの図面を出す。

 図面の現在地を指さしながらアキコ姉に説明。

「今いる『西一四一第六街区』の図面です。まずはここの通路からこの団地コロニーを出て、こっちの通路へ行こうと思います。うまく行けばまだ生きている無人の団地コロニーとか、もっと豊かで僕らも生きていける団地コロニーがあるかもしれないですし」


 アキコ姉はちょっと驚いたような顔で僕に尋ねる。

「どうしたのこれ。本にも端末を叩いても載っていないのに」

「去年、閉鎖区画を一人で探検している時に見つけたんです」

「凄いね。これがあれば色々迷わなくて済むかもしれないわ」


 アキコ姉に褒められるとちょっと嬉しい。

 でも残念な事実もある。


「でもここの団地コロニー分しか無いんです。この先が他の何処に繋がっているかもわからないですし」

「ううん。これだけでも充分に貴重な資料よ」

 アキコ姉は図面を隅から隅まで見た後、折りたたんで僕に渡した。

「ありがとう。それじゃ行こうか。気づかれる前にここから離れた方がいいでしょ」


「追いかけては来ないと思うけれど、確かに早いほうがいいでしょうね」

 エネルギー不足なので団地コロニー内の警戒とかそういう事はやっていない。

 その辺は閉鎖区画を探検した時にわかっている。

 でもまあ早いほうがいいというのは事実だろう。

 遅くなっていいことなど何も無いから。


「じゃあ行きましょうか」

「はい」

 僕達は並んで第二居住区の扉から通路へ出た。

 学校と反対方向に歩いて今は閉鎖されている第一居住区の前へ。

 この先の通路は隔壁で閉ざされているけれど僕は知っている。

 第一居住区内から迂回できる通路があるのだ。

 そんな訳で非常灯だけしかついていない第一居住区へ。

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