受験生の頃の話
26、六年ぶりの受験を控えて
高校二年生の冬頃から、私の学校は強く受験色を示すようになりました。「受験生〇学期」なんてよく聞く謳い文句も掲げられ、学年集会やホームルームなど、先生たちは事あるごとに「受験生としての意識と自覚を持て」と言い聞かせていました。高校受験を経ていない私にとっては、中学受験ぶりに訪れる受験でした。
なぜわざわざ「受験生の頃の話」を「高校生の頃の話」と分離したかと言いますと、普段の家庭の不和に加え、この時期特有のトラブルにたくさん見舞われたからです。受験生期は、学習面と家庭面の両側からギリギリまで追い詰められた時期でした。
父の様子は相変わらずでした。味噌汁がぬるいとか、自分のためのおかずを用意していないとか、ご飯を食べてすぐ部屋に戻ったとか、そんなことで腹を立てることばかりでした。突然怒りの沸点が訪れ、意味不明の論理でキレだす父のことは、まるで宇宙人みたいだと思っていました。
一月二十日。冷え込みの激しい日でした。普段はお風呂を入れるのを「ガス代がかかる」と渋る父ですが、さすがにその日は寒くてお湯を張りました。外から帰ってくる父を多少気遣った結果でもありました。お風呂に入るだけ入った父は、湯船だけを洗って排水溝を洗っていなかったことに突然怒りだし、父一人しか入っていない湯船のお湯を抜きました。労力を返してくれ、と思うと同時に、少しでも情が湧いた自分が馬鹿だったと思いました。
二月十日。春休みに母の家にお呼ばれしていたので、その件について母と電話をしていました。帰ってきた父に報告したところ、開口一番に言われたのが「長電話してたってこと? もしかしてこっちからかけたのか? 電話代考えろよ、高かったら小遣いから差し引くからな」という台詞でした。私はただ、普段ゆっくり会うことも話すこともできない母との通話を、純粋に楽しみたかっただけなのに。母と会うのを楽しみにしていただけなのに。そんなことしか言えない父の無神経さに心底嫌気が差しました。
なんて、細々としたエピソードもあるけれど、これはいつもの延長線上の範囲でした。本当の地獄は、私が高校三年生になってから始まりました。
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