第21話 新しい得物

「と、言うわけなんです。」

「ふん。及第点だな。ゴーレムを倒したことに免じて、時間をオーバーしたことは許してやろう。」


 その後、魔力を使い切った私は、数十分動くことが出来ずにいたが、少年の看病によって回復した。

 ついでに、倒したゴーレムから何か使えるものが無いかとあれこれ採集して帰ってきたというわけだ。持って帰ったゴーレムの破片を見て師匠は少しでも驚くかと思ったが、ふん。と鼻を鳴らすだけで、

「お前がもって帰ったのは鉄くずとなんら代わりが無い。そんなものより、もっと早く帰ってくるべきだったな。」

 と厳しいお言葉付きだった。


「まぁいい。その体じゃ午後からは動けんだろう。不本意だが休息をやろう。」

「すみません、師匠。

 それと…あの…、もう一つ。」

「なんだ?」

「師匠から預かったダガーなんですが、この通りで…。」

 と、持ち手とミスリルの芯だけになってしまったダガーを師匠に見せる。

 また、雷がおちる怒られるかと思ったが、実際はそうではなかった。

「なんだ、そんなことか。そんなもの子どものおもちゃに過ぎん。」

「許してくれるんですか?」

 師匠の態度は意外にも怒っておらず、大したことでもない風に言う。


「むしろ、そんなものでゴーレムを倒せたことのほうに驚いている。

 使結果なのだろう?それは。」

「はい、そうです。」

「なら、俺から言うことは何も無い。」

「ありがとうございます!」

 少し、師匠に認められた気がして嬉しくなった。


「図に乗るなよ。本来なら、ゴーレムなんて無視して山を降りてくればいいだけのこと。倒せたからといい気になっていると痛い目を見るぞ。」

「は、はい。気をつけます。」

 やっぱり、師匠は厳しい師匠のままだった。


「お姉ちゃん、ありがとう!!」

 私はベッドに横になりながら、少年との別れ際を思い出す。


「もうこの山には近づいちゃダメよ。恐ろしいモンスターだっているんだから。」

「分かった!いつもの山で遊ぶことにするよ。」

「よろしい。」

「それと、これ。ありがとうの気持ち!この山で拾ったんだ。」

 と、少年は青い石を取り出した。

「多分、これ、この山の宝物だよ!」

「えぇ、ありがとう。」

 

 私は、渡された青い石を取り出して眺めてみる。

 魔力などは感じないし、なにか特別な石と言うわけでもなさそう。宝石の類かな…。とまじまじ見ていると、師匠が部屋に入ってくる。

「調子はどうだ。」

 

 思わず、石を後ろ手に隠してしまう。

「わ、ちょっと、ノックくらいするものじゃないんですか?」

 いくら師匠とは言え、女性の部屋に何の確認もせず入らないというのは不躾が過ぎると思ったが、師匠のほうには何の悪気も無かった。

「弟子の部屋を訪れることの何が悪い。

 …それよりも、今何か隠さなかったか?」

「え、あ、えぇ。これなんですが。」

 隠しても仕方が無いので、師匠に見せる。


「今朝助けた子どもがこれを私にくれたんですが、どんな石なのかと思いまして。」

 そう言って、師匠に手渡す。

「ふむ。これは『ゾイサイト』…だな。だが、青いものは珍しい。」

「そうなんですか?」

「『ゾイサイト』自体、さして魔法的価値があるものではない。

 どちらかというと成金趣味の者がこぞってつけたがる宝石のようなものだ。」

 

 私の想像通りの答えでちょっとだけ残念に思う…。

「だが…、そうだな。これは俺が預かってやろう。後で返す。」

「え、それは。」

 せっかく、少年からもらったものを師匠に渡していいものかと悩む。

 しかし、師匠は有無を言わせず言い放つ。

「何か異論が?」


「いえ…、ありません。」

 師匠に青い石ゾイサイトを取られてしまった。ゴーレムを倒した記念になると思っていたのに…。

 

しかし、それは意外な形で帰ってくることとなった。


 夜になって、師匠から「この後、鍛冶室に来るように。」とのことだったので、私は鍛冶室の前に立つ。また、武具の鑑定チェックでもするのだろうか?

「失礼します。」

 ゆっくりと、鍛冶室のドアを開ける。


「あぁ、座れ。」

 昨日と同じ場所に座らされる。

 そして、師匠は一本のダガーを私の目の前においた。

「この武具の鑑定チェックをするといい。」

「はい、分かりました。」

 

 まずは目視で確認。その刃はよく研がれ鋭く光り、未使用の品だと感じた。

 アクセントとして柄の部分には宝石。

 それに材質は…え?


「これ…全てミスリルですか?」

「そうだ。」

 何も混ざり物がないミスリルがこんなにも魔力を帯びているものだとは知らなかった。驚きを隠せないでいると、もう一つ気がついた。

 

 さっきの宝石、昼間の…

「『ゾイサイト』…ですか?」

「あぁ。といっただろう?」

「それってつまり…?」

「このミスリルダガーはお前のものだ。」

 

 その瞬間、鳥肌が立った。

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