第20話 克服

「お姉ちゃん…?」

「立って!安全な場所へ!」

 私はゴーレムと対峙し、背中越しに少年に声をかける。しかし、少年はやはり腰を抜かしてしまっているようで、動けるまでに時間がかかるようだ。

 

 さて、飛び出したはいいもののゴーレムとどう戦えばいいだろうか。

 頭の中でシミュレートする。

 おそらく、ダガーではダメージを与えるどころか、傷一つ負わせることも不可能だろう。ダガーに属性付与エンチャントして攻撃したとしてもそれは同じこと。

 ならば、やはりダガーを「使」ことが肝になってくる。

 うまくいってくれればいいのだが。

 

 先手はゴーレムの方であった。ゴーレムは両手を握って叩き落アームハンマーしてきた。モーションが大きい分、威力は絶大、当たればひとたまりも無い。私はそれを横っ飛びしながらかわす。

 と、同時に両手が叩き落される直前、地面にあるものを撒く。それはさっきまで討伐していたスライムの残り滓だ。何度かスライムを討伐していた際に落ちていドロップしたもので、何かに使えるかも程度に集めておいた。


 「「ドゴーン」」


 思わず耳を覆いたくなるような爆音がし、あたりに土煙が舞う。

 あれが当たっていたらと思うと身の毛がよだつ。しかし、それは私の思惑通りであった。ゴーレムはしばらく動けないでいた。土煙が晴れ、そこに現れたのは…ゴーレムの両手だった。その延長線上には、さっき撒いたスライムの残り滓と地面に突き刺さった短刃ダガー


「擬似氷結魔法アイシクルってところかな。効果時間は短いけどね。」

 そう、私はダガーをスライムごと地面に突き刺し、氷雪属性の魔力を、ダガー、スライム、ゴーレムの両手に流し込んだのだ。結果はご覧の通り、ゴーレムの両手は凍りつき行動不能になった。

 

 もちろん、まだ油断は出来ない。

 擬似的な凍結でしかないので、効果はもって2~30秒ほど。私は急いでダガーを引き抜きそれをゴーレムの右膝に押し込む。


「そういえば、師匠に最初に教えてもらったのって、ゴーレムの弱点が関節部分にあるって事だったわ。」

 どんなに硬い体を持つ物であっても、その可動部には柔らかい部分や隙間が存在する。その事を師匠は言っていたのだ。

 

 そして、私はダガーを右膝に押し込みながら目いっぱいの炎属性の魔力を、ダガーに注入する。


炎属性付与エンチャント炎属性付与エンチャント炎属性付与エンチャントぉ!」

 ミスリルを通してダガーに炎属性が付与できるなら、金属であるゴーレムにも同じことが可能だと考えた私は、ありったけの魔力をダガーを通してゴーレムに流し込む。

 

 ゴーレムは熱を持ち始め、凍った両手は「パリン」と割れてしまった。

 私のダガーも多すぎる魔力に耐え切れず、残ったのは持ち手とそこから伸びるミスリルの棒だけだった。

 ゴーレムが動き始めるのを感じ取って、私は急いでそこから距離をとる。これでだめなら…。と思っていると、ゴーレムは一歩、二歩と私のほうに向かって歩き出す。

 魔力も既に尽きてしまっていて動くことも出来ない私は、半ば覚悟を決めた。

 

 すると、三歩目でゴーレムは力尽き倒れた。もう少しでその下敷きになりそうだったが。

  

 ふぅ、どうにかなったようだ。

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