第19話 二度目の恐怖

 その後、先ほど探知したモンスターを3匹、スライムとラットを炎属性を付与エンチャントしたダガーで手早く倒すと、私はもう一度、擬似索敵魔法エンカウントに臨む。


「ドゴーン!」 

 と、そのとき近くで小規模な地響きがした。これまでの小型モンスターとは違う、大きなモンスターの気配。遭遇する前に一度、ダガーを地面に突き立てる。


「これって、!?」

 探知できたのは紛れも無いゴーレムだった。そのとき、先日の恐怖がよみがえる。馬車ごと踏み潰そうとした足、効かない火球ファイアボール、師匠の助けが無ければまずあそこで死んでいたであろう恐怖が。


「あ、ああ…。」

 気づかれる前に逃げよう。そう思ったときだった。


「助けてー!!」

 悲痛な少年の叫び声が聞こえた。


 まさかこんな山に子どもが!?そんなはずは、と思いながらもう一度、ダガーを地面に突き立てて探る。さっきは大きなゴーレムの気配にまぎれて気づかなかったが、今度はもう一つ小さな人間の足音を感知した。

 ゴーレムから逃げ惑う子どもの足音だった。

 

 私に助けることができるだろうか?頭をフル回転させ、考える。

 子どもと一緒に逃げ切ることは不可能だ。子どもの足ではゴーレムに追いつかれてしまう。

 ならば、ゴーレムの方を退治、もしくは行動不能にしなければならない。持っているのはダガー一本。教わったのは「使」こと。


「よし。」

 私は覚悟を決めてゴーレムの前に立ちはだかった。


 少年はただ、山に遊びに来ただけだった。

 彼は山の森が好きで、木に登るのが好きで、森の小動物と戯れるのが好きだった。

 たまたま、この日はいつもよく遊ぶ近くの山ではなく、怖い魔術師が居るといわれている山へ遠出してみたのだ。

 親には「近づいてはならないよ。」ときつく言われていたが、そこは子どもの好奇心のほうが勝るもの。「近づいてはならない」と言われれば言われるほど、入ってみたくなるものだ。

 彼はそこで青色に輝く不思議な石を見つけた。「宝物だ。」と思った。

 持って帰って家族に自慢しよう、「怖い山なんかじゃなかったよ。」って。

 それを、ポケットに入れた瞬間それはあらわれたのだった。とてつもなく大きな鉄の巨人が。


「待ちなさい!」

 と、大声をあげたものの、ゴーレムにそれを理解できるかどうかは疑問だった。しかし、注意を引くには十分であったようだ。ゴーレムの意識は少年から私へと切り替わる。

 

 しかし、私は先日とは状況が大きく異なるということを突きつけられる。そのゴーレムは先日のものより小さく、人間大程度の大きさであったが、体がで出来ていた。

「金属タイプ:準小型サイズのゴーレム…か。」

 

 文献では知っていたが、もちろん見るのは初めてだった。岩石タイプのゴーレムと比べて希少種であり、防御力・魔法抵抗力ともに岩石タイプのそれとは比べ物にならないほど

 普通の冒険家でさえてこずる相手だというのに、ダガー一本の冒険家でさえない素人がどう立ち向かえというのか。私は今一度状況を再確認する。

 

 さっきの子どもは、腰を抜かしたように立つことが出来ないでいる。ますますもって、子どもと一緒に逃げることは不可能なようだ。

 ゴーレムは金属タイプ。先日の岩石タイプであれば水属性付与エンチャントでどうにか時間を稼ぎ、その間に子どもだけでも逃がそうとしたがそれも難しい。

 

 

 ならば、二人とも助かる可能性は一つ。ゴーレムのだ。

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