第18話 二度目の山へ

「『どう使うか考えろよ。』…ねぇ。」

 

 まずは、昨日教わったようにダガーのチェックを怠らない。昨日、20匹弱のモンスターを倒したにもかかわらず、切れ味は落ちていない。よく研がれている証拠だ。

 材質は主に鉄だが、その芯にはミスリルが含まれており魔力を通しやすくなっている。魔力を持つものにとっては使い方が問われる代物である。

 と、そこまでチェックしてはたと気づいた。


「ん?鉄とミスリル?」

 そもそも、鉄とミスリル、二種類の金属はどのように合成されたのか?それに、昨日見せてもらった金とダマスカス鋼で作られたヘルムも同じだ。異なる金属を合成する手法が師匠にはあるのだろうか?まさか、合計の金属を扱うことのできる魔法鍛冶師じゃあるまいし…。

 

 と、そこでモンスターの気配に気づいた。

 現れたのは昨日、苦戦した「スライム」。だが、今日は昨日と同じような失敗はしない。

「弱点は炎属性。このダガーに炎属性を付与できれば…。」

 杖なしの属性付与魔法エンチャントは初めてだが、ダガーに含まれるミスリルを触媒代わりに魔力をこめる。すると、ダガーに熱を帯びるのを感じた。


「なるほど…。」

 杖が無いから魔法が使えない、なんてことは無かった。むしろ、ダガーそのものを杖と見立てることで魔法を使うことが出来るようだ。ひとえにダガーに含まれるミスリルのおかげではあるのだが。

「これでスライムを攻撃したなら…。」

 私はスライムに肉薄し、スライムの表面を炎属性付与のダガーで切りつける。

「ジュー」と、水が蒸発する音がする。昨日とは違い、その傷口が修復されることはない。

「これなら、いける!」

 

 スライムの反撃をかわし、隙を見て切りつける。ヒットアンドアウェイを繰りかえすと、スライムの体積はみるみるうちに減少し、体内から核が露出した。

「これで!とどめ!」

 露出した核をダガーで一突きにする。その瞬間、スライムは活動を停止した。昨日よりも苦戦することなく、スライムを撃破することが出来たのだった。

「師匠が言っていたのはこのことだったのね。」

 私はとても納得し、またモンスターを散策するため山を歩く。


 その後は調子よくスライムやワーム、ラットなど小型モンスターを25~6体倒すことができた。基本的には対するモンスターの弱点となる属性をダガーに付与エンチャントすることで、苦戦を強いられることは無かった。

 

 しかし、正午まであと1時間といったところで、ぱたりとモンスターが現れなくなった。師匠の言いつけである30体にはあと少し足りない。さて、どうしたものか…。

「どう使うか考えろ…。まだ、出来ることがあるはず。」

 そう自分に言い聞かせ、あごに手を添えて考える。偶発的にモンスターに出会うだけじゃなく、自分から探すことが出来れば。と、考えて気づく。

 索敵魔法エンカウントがあるじゃないか。もちろん、杖はないのでこのままでは無理だ。だけど、私はヒントを得ている。


「これなら…。属性付与エンチャントアース!」

 ダガーに地属性を付与し、思いっきり地面に突き立てる。その瞬間、周囲20メートルほどの地形が頭に流れ込む。そして、その地上を歩くモンスターの気配も同時に感知する。索敵魔法エンカウントの応用とでも言おうか、ともかく、南東方向に3匹のモンスターの気配を感知した。


「このままだと、私。魔法鍛冶師じゃなくて属性付与士エンチャンターになっちゃうかもね。」と、一人でくすりと笑い、南東へと向かう。

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