第17話 火熾し

「え、あの、身体フィジカルトレーニングですか?」

「そうだ、不服か?」


「そういうわけではありません。しかし、」

 それは本当に魔法鍛冶師にとって必要なことなのだろうか?

 そういう疑問が鎌首をもたげる。


「魔法鍛冶師は鍛冶だけしていれば十分、などと考えていないだろうな?」

「い、いえ!」

 私の胸中を見透かしたような質問に驚かされる。


「ですが、私は魔法鍛冶師の仕事がどんなものかまだ分かりません。それぐらい教えていただいても構わないのではないですか?」

「阿呆。気が早い。」

 にべもなく一蹴されてしまった。


「しかし、これだけは言っておこう。どんな鍛冶をするにおいても下準備は必要だ。ドワーフ鍛冶で言うなら、お前はまだ火をおこしている最中に過ぎん。

 そんな状態で鉄が打てるか?」

「それは…。」

 全くもって不可能だ。


「ならば、疑問を持たず、口を挟まず、俺の言うことを聞くんだな。」

「はい…、師匠…。」


その日の夜、自室に割り当てられた―昼間に掃除をさせられた―部屋のベッドの上で自問自答する。

「お前はまだ火をおこしている最中に過ぎん。」か…。

 師匠が言うには、私はまだ鍛冶師としてのスタートラインにすら立っていないことになる。当たり前といえば当たり前の話だ。

 昨日まで、学生として暮らしていた私が、いきなり鍛冶師の仕事なんか出来るはずがない。鍛冶師として必要な能力すら備わっていないのは当然だ。おそらく師匠はそれを身につけさせるための、何か考えがあるのだろう。

 そう考えると少しやる気にもなってくる。やってやろうじゃん、という気持ちになる。私の中に小さなが灯ったような、そんな気がした。


―翌朝

 今日から本格的なトレーニングが始まる。そう考えると、緊張と期待がない交ぜになったような心境であった。

「さて、今日の午前だが…。」

「はい、師匠!」

 私は元気よく応える。今日から心機一転がんばるのだ。


「モンスターを30匹ほど狩ってこい。」

「ま、またですか。しかも、30匹…。」

 昨日と同じ指示で、しかも数が増えていた…。

 タダでさえ、苦手なモンスター退治を二日続けてさせられるとは…。


「口を挟むな、といったはずだが。」

「すみません、師匠!」

「無論だが、昨日のようなやり方では、午前どころか一日中かかっても終わるまい。だが、俺が言うことは変わらん。

 それダガー使よ。」

「はい!行ってきます!」

私は、勢い勇んで山の中へと入っていった。

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