第一章(下) 日常は一変

第13話 魔法鍛冶師の弟子

―次の日の朝

「それで、答えは決まったのか。」

 男性は答えを急くように腕組みをしながら問う。


「その前に、1つだけ確認させてもらってもいいですか?」

「なんだ。」

「あなたは私に『才能がある』とおっしゃいました。

 仮にそういった才能があったとして、それをあなたに託していいのですね?」

 そもそも、その『才能』というのがまだよく分かっていないのだが、そこは男性を信じて行動するしかない。そう考えた。


その問いに対して、彼は当たり前だといわんばかりに答える。

「俺を誰だと思っている。鍛冶師だぞ?のが俺の仕事だ。

 貴重な原石があればそれを最高の品にしてみせるのが本領の見せ所というものだ。」

 そう彼が答えるので、私はもう、ついて行くしかないと覚悟を決めた。


「分かりました。それともう1つ。お名前を伺っていませんでした。」

 そうなのだ、ゴーレムの一件で忘れていたが、まだ男性の名を聞いていなかったのだ。しかし、それは問うまでもないこと。礼儀上必要だったから改めて尋ねたのだった。


「そんなこと、知ってて来たんだろう。『レイヴン・ハルト』だ。」

「ありがとうございます。

 …私、ピッピ・チスタはレイヴン・ハルトに師事致します。」

「ふむ、弟子としての立場もわきまえている様だ。よろしい、お前は俺の弟子だ。

 この際、形から入るとしよう。今後、『師匠マスター』と呼べ。」

「はい、師匠マスター。」

こうして、最高の魔法鍛冶師に才能あふれる一人の弟子アプレンティスが誕生した。


「さて、ピッピよ。弟子になって一番最初にやることがある。」

「はい、師匠マスター。」

 弟子になって早速何か教えてもらえるのだろうか?

 少しだけ、期待で胸が膨らむ。

「部屋の掃除だ。」

「はい?」


昨晩ゆうべ、お前が泊まった部屋はあくまで来客用だ。

 自分の部屋は自分で掃除しろ。」

 という、至極もっともな師匠の言葉であったが…。


「何年使ってないのよ、この部屋…。」

 それはもうひどい部屋であった。

 部屋にあるものは全て埃にまみれ、部屋の隅には蜘蛛の巣が張っている。部屋中の物は全て散乱し、本や何かの金属片が無造作に置かれている。どこから手をつけていいのか分からないほどだ。

 とりあえず、愚痴をこぼすより手を動かすことにしよう。早く終えればそれだけ、何か教えてくれるかもしれない。

 

 それにしても、そこらに散らばっている本は、私の知らないものばかりであった。「知識魔法大全ラグナロック・アーツ」…という名は昨日、捨てたが、その私でさえも知らない本、興味が惹かれないわけがない。少しだけ中身をのぞいてみようかな。

「何をしている。」

「ま、師匠マスター。い、いえ…、これは…。」思わず、しどろもどろになる。

「そんなことをしている暇があれば、手を動かせ。」

 そう言って師匠は立ち去る。

「はい、すみません…。」

 早速叱られてしまった。少し、しょんぼりする。

「いや、今のは私が悪い。頑張って掃除しよう!」

 と、一人奮起する。さもなくば、今日寝る部屋も無いのだ。


―それから、二時間ほど。

「ふう、片付いたかな。」

 あれからバリバリと掃除に洗濯をこなし、部屋としては十分な機能を持つ空間へと生まれ変わった。散らばっていた書物は本棚に戻し、金属片は捨てるわけにもいかず、私が知る範囲で分別しまとめておいた。


「終わったか?」

 ちょうどいいタイミングで師匠が顔を出した。

「はい、師匠。」

「ふむ、まぁ、悪くは無い。が、もう少し早くするものだな。」

「すみません。」

 褒められているのか、叱られているのか判断につかず…、謝るしかなかった。


「さて、午後からの予定だが」

 さっそく、修行が始まるのだろうか?魔法鍛冶師の修行とはどんなものなんだろう?やはり、期待に胸が膨らむ。


「山へ入ってモンスターを20匹ほど狩ってこい。」

「は、はい!杖と法衣ローブを用意しますね。」

 しかし、師匠は意外な言葉を言い放つ。

。」

「はい?」


「お前は今日から魔術師ではない、だ。そこをはき違えるなよ。」

 そう言って、師匠は私に何かを手渡す。

「これは?」

「お前の得物だ。どう使うか考えるがいい。」


 そういって渡されたのは短刃ダガーだった。

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