第12話 ピッピの決断

「弟子…ですか?」

 話が突飛しすぎていて、いまいち状況が飲み込めない。


「魔法学園なんてつまらないものは辞めてしまえばいい。あそこに行ってもお前の才能はつぶれてしまいかねん。

 それよりも俺がほうが、面白いことになりそうだ。」

「それは…、えっと…。」

 彼は今なんと言っただろう。魔法学園を辞めろ。と?

 私の才能…?何だか、よく分からない話のように思えた。


「どうだ?お前にとって悪くない話のように思うが?」

「そ…れは…、すぐには決めかねます。一度家に帰って…」

だ。お前のような才能を遊ばせておく余裕は無い。」

 男性は強引にそう告げる。私にはまだ分からないことが多すぎるというのに。


「才能才能、って私の才能って何なんですか?」

「それもまた、俺の弟子になってみないと分からないことだ。しかし少なくとも、魔法学園あそこでは死んでしまう才能だ。」

 

 私はどちらを選ぶべきなんだろう・・・、魔法学園か、鍛冶師の弟子か。これまでの私だったらまず間違いなく前者を選んでいただろう。

 だけど、やはり気になるのは私の「」という言葉。

 私には自分でも気づいていない才能がある?そんな甘い言葉に乗せられてしまっていいのか。

 いつの間にか私は、考えていた。

 しかし、自分の中では既に答えが出ていたのだ。


「少しだけ、時間をくださいませんか。」

 それでも私には踏ん切りをつけなければならないことが一つあった。


「まあいい、一日だけは時間をやろう。

 今日はここに泊まって、明朝答えを聞こう。」

「分かりました…。

 それともう1つお願いがあるのですが…をお借りできませんか?」


 ―「もしもし」

「もしもし、サーシャ?」

「ん、その声はピィかな?どうだった?魔法鍛冶の勉強は。」

「それがね、まだその人のところにいるんだけど…。」

 私は今日あったこと全部をサーシャに話した。


「はぁ!?学校辞めて弟子!?」

「声が大きいよ、サーシャ。それにまだ決まったことでもないし。」

「絶っ対、弟子なんて辞めたほうがいい!絶対!」

「でも、私の才能が…」

「そんなん、小間使いを手に入れるためのていのいい方便だって!見るからに怪しいじゃん!それに、私。ピィのいない学園なんて絶対嫌だからね!」

「私もそう思ってる。…けど。」

「けど…、なに?」

 サーシャはちょっと怒った風に問い詰める。


「私の才能は、学園だと死んでしまうんだって。」

「それが、方便だって言ってんじゃん!」

「私は!!…私は、サーシャみたいに特別な魔法なんて使えない…。

 だけど、私にしか出来ない道があるなら、私はそれを行きたい!」

「ピィ…?」

 

 多分、そうなのだ。知識魔法大全ラグナロック・アーツなんて囃し立てられてこそいるが、それでも劣等感コンプレックスを抱えていたのは、常にサーシャが隣に居たからなのだ。

 サーシャみたいな特別な魔法力も無ければ、私は魔術師になることもない。私に対して差別をしていたのは周りの人間でも誰でもない、自分自身なのだ。

 それでも、私に才能があるって言ってくれる人がいるのなら、それを信じることはいけないことなのだろうか?


「サーシャ、ごめん。

 でも、あの人は私には私の道があるって示してくれた。」

「ピィ、もしかして…」


 言うかどうか迷った言葉を告げることにする。

 昨日まででは考えられなかった言葉だが、それに気付いてしまったときには、もう誰にも私を止めることはできなかった。

「うん、ごめん。サーシャに電話したのはね。

 サーシャと…するためなんだよ。」


そう言った瞬間、サーシャは取り乱した風に叫ぶ。

「ピィ!そんなの嫌だ!弟子になるのも止めたりしない!だから!

 だから…、それだけは…。」

「サーシャ!私があなたを嫌いになる前に!

 私はあなたの前から居なくなる!それが一番良いなのよ。」

 

 いつのまにか二人とも涙を流し、べそをかきながら話していた。本当なら、私だって絶交なんてしたくない。でも、そうでなければ、やはり私は大親友サーシャのことをこれから嫌いになってしまうのだ。


「それが…、知識魔法大全ラグナロック・アーツの判断なんだね。」

「そうよ、他でもない私が下した決断よ。」

 サーシャが知識魔法大全ラグナロック・アーツの名前を出した時には、既に二人の間に大きな隔たりが出来てしまっていた。


「分かった。なんてほど、私は物分りはよくない。

 だから、さよならなんていわない。」

「えぇ。」

「次会う時には、あなたを後悔させるほどの大魔術士になってやるんだから。」

「えぇ。楽しみにしてるわ。」

 そうして、電話は切られたのであった。

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