第11話 レイヴンの鍛冶工房
ゴーレムを退治した場所から20分ほど歩いた場所に、それはあった。周りは木々が生い茂っており、遠目から見てもそこに建物があるとは気づかなかったほどだ。
「入れ。」
「し、失礼しますっ!」
私はめちゃくちゃに緊張していた。
そもそも、私は工房を持っておらず、工房自体どんな造りになっているのか興味が尽きなかった。
本当はあちこち調べまわりたいくらいなのだが、他人の工房で好き勝手するわけにもいかない上に、男性の威圧的なオーラが私を縮こまらせた。
「さて、来て早々だが…、」
「はい!」
何か話でも聞かせてくれるのだろうか?少しだけ期待がこもる。
「帰れ」
「えっ」
私は絶句した。ここまでこんな苦労をかけてやっとたどり着いたというのに、にべも無く、「帰れ」と言う。ここまできて手ぶらで帰れるはずも無い私は彼に食ってかかる。
「ちょっと待ってください!何でなんですか?」
「俺は『使える奴を遣せ』と言ったんだ、魔術師もどきが欲しかったわけじゃない。」
「魔術師もどきって。」
全くもって、ひどい言い草だ。
「さっきの
「た、確かに。実戦を想定した魔法は他の人より不得意ですが…。」
…普段であれば、もうちょっと早く詠唱できたはずだった、しかし、それが何らかの理由で出来なかったのだ…。
「だから、魔術師もどきと言うんだ。実戦に向かない魔法など無意味だ。」
あぁ、ここでも戦闘魔法が優遇されて、それ以外の魔法は差別されるんだ。こんなんじゃ、あそこと一緒なんだ。と、ひどく残念に思った。
「本当に…、そう…思われているんですか?」
「ああ、そうだとも。それとも、そんなこと学校では教えてくれなかったか?」
むしろ、学園ではその身に痛感させられている。実技成績が優秀な者の横柄な態度…、補助魔法や魔法研究を軽蔑するかのような目…。私もつらい思いをしてきたことが思い起こされる。
「それは…いえ…、なんでもありません。」
「ならば、早々に帰るといい。今からなら近くの村に行っても馬車には乗せてくれるだろう。」
「そうします。」
私は入ってきた扉のほうへ向く。
「でも、最後に1つだけいいですか?」
言われっぱなしは私の性格には合わない…。
「許そう。」
「私の
それを聞いて、男の目つきが少し変わった。
「ふむ、続けてみろ。」
私は彼の方へ向き直り、思考を奔流させ、それを彼にぶつける。
「最初、あなたの剣に発動されたのは水属性の
でも、実際はそれに必要な詠唱も魔法の行使もされていなかった。
それは、私の魔術式をその場で読み取り、自分の剣に上書きしたんですよね。
だから、私の魔法は威力・詠唱共に弱体化してしまった。」
そう、私は一息にまくし立てる。
「ふむ、そこまで見抜くとはな。確かに魔術に造詣がないと見抜けない代物だ、あれは。しかし、50点だな。それだけでは…」
彼の言葉を遮って、私は続けて言葉をぶつける。
「それが出来たのはあの剣そのものに理由があります。
見るのは初めてですが、あれはミスリルソードですね。『ミスリル』というのは、スーパーアロイの中でもっとも魔力を通しやすいそうじゃないですか?
他の剣で同じ事をしようとすると、剣そのものがもつ魔力と反発し合い、剣の方が折れてしまうはずですが、唯一ミスリルソードであればそれが可能です。」
彼の目がいっそう鋭くなる。ここでひるんでは駄目だ。
そうして、最後に私はトドメの言葉をくれてやる。
「そして、そんな芸当が出来るのは魔法にもミスリルにもスペシャリストでなければならない。
つまり、あなたは『ミスリルの魔法鍛冶師』なんじゃないですか?」
その瞬間、シンと辺りが静まり返ったような気がする。長い静寂にも感じた。
「くっはは」
男はなぜか笑う。
「初めて見た魔法鍛冶からそこまで読み取るとはな。失言を取り消そう。お前は使えない奴ではなさそうだ。」
「じゃあ…、」
「だが、間違いだ。俺はミスリルの魔法鍛冶師なんかではない。」
私は今まで生きてきて初めて読みを外した。その事実に愕然とする。
「し、しかし、それでは、あの現象の説明がつきません。」
「確かに、お前の魔法を
「そんな…。」
せっかく、突破口を見出したと思ったのに…。
「ふむ、だが…、そうだな。お前は面白い奴だ。案外、ミスリルの魔法鍛冶師の素養があるのはお前のほうかもしれないぞ?」
「どういうことでしょうか?」
「魔法鍛冶について知りたいんだったな。簡単な方法がある。
俺の弟子になればいい。」
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