第10話 レイヴンとの邂逅(急)

 その男性は黒のウイングシャツにボウタイ、ベストとフォーマルな出で立ちをしていた。切れ長の鋭い目にややとがったあご。鼻立ちはくっきりしており、眉目秀麗な男性だ。

 しかし、やはり、もっとも目に入るのは、銀白色に輝くロングソードであった。男性の身長が180cmほどだったとして、通常のものより少し長い…刃渡り110cmはあろうかという、そのロングソードはやや厚みがあり、両手で扱うものだと想像できた。


「…あなたは?」

 突然現れた男性に、混乱しながらも私は尋ねる。

 しかし、男性は冷たく

「自己紹介をしている暇があると思うか?」と答える。

「すみま…」

「謝っている暇も無い。お前が発動できる水魔法は?」

「は、はい。ウォータートルネードが最大です。ですが、詠唱に時間が…」

 すぐそこまでゴーレムが迫っている。大掛かりな魔法は発動できない。


「かまわん。始めろ。」

 そう言うと男性は、担いでいた剣を構えゴーレムに向かっていく。

 時間稼ぎをしてくれる、のだろうか。とにかく、私は水渦魔法ウォータートルネードの詠唱を始めた。


―深き海より出でし水のマナよ、縒りて集まり、奔流と化せ!


「行けます!」

「奴の足元を狙え。」

「はい!ウォータートルネード!」

 ゴーレムを大量の水が覆い、空へ向かって巻き上がり水柱と化す。…しかし、これでもまだ威力が足りていない。どうすれば!


狼狽うろたえるな。」

 そう言った男性の剣は、先ほどまでと違い、を放っていた。

「まさか水属性付与エンチャント!?」

 武具に特定の属性を付与する魔法が、その名のとおり属性付与魔法エンチャントである。しかし、誰もそんな魔法を行使していないのになぜ?私の疑問とは裏腹に、男性は水柱へと突入する。

「こういうデカブツの弱点は、おおよそ関節部にある。とくに大きい奴ほど膝が弱い。覚えておくといい。」

 そう言いながら男性はゴーレムの右膝を袈裟切りにする!彼の剣は、まるでバターを切るかのように抵抗を感じさせずゴーレムの膝を両断し、支えを失ったゴーレムは前のめりに倒れる。


「…やった、やったんだ。」

 私は緊張の糸から解かれ、膝から崩れ落ちる。ほんの数分前まで死を覚悟していた私にとって、まさに奇跡の生還である。

「ありがとうございます!おかげで助かりました。」

「あの程度の水渦魔法ウォータートルネードで詠唱に時間がかかりすぎだ。俺は使える奴をよこしてこいといったはずだったんだがな。」

「す、すみません…。でもそれって…?」

「お前なんだろう?シンドラーが遣してきた学生というのは。名は?」

「は、はい!『ピッピ・チスタ』です。」

「そうか…。ふん、ついてくるといい。」

 

 彼は置いていくぞといわんばかりに歩き出す。私はヨタヨタと立ち上がって、何とか彼の後ろを追いかけてゆく。

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