第6話 四天王

「ピィの方こそ、声が大きいじゃん。」

 しまったと思った時にはすでに遅し、中庭がざわざわし始めた。


「あら?のお二人が一緒にお食事を取られていますわ。」

「聖ヨシュア魔法学園四天王の三叉の槍トライデント・スピアサーシャ様と知識魔法大全ラグナロック・アーツのピィ先輩よ。」

 

 うん、こう見えて私もこの学園では有名人で通っている。

 武を極めた魔術師が隣にいるサーシャだとすると、それに対し知を磨きて終末を知る者が知識魔法大全ラグナロック・アーツこと私である。目立つのがとにかく苦手な私としては不本意だけれど。

 というか魔法大全ってなんだ。

 事典みたいでやっぱり嫌だ。

 それにちょっと待て、


「ねぇ、サーシャ」

「なに、?」

「その呼び方、後輩とかにも話したりしてないでしょうね!?」

「え、ピィはピィじゃん。」

 状況は思ったよりも最悪だった。

 あまり気に入ってないあだ名を言い触れ回るなんて!


「あぁー、もう!とりあえず!移動しましょう!」

「え、何で?」 

 とにかく、目立つのが苦手な私はその場から離れようとする。しかし、サーシャのほうは全くそれに気付いていなかった。


「いいから行くの!」

 私は立ち上がって、サーシャを引きずるように歩き出す。

「じゃあねー、みんなー。」

 対してサーシャは呑気に後輩たちに手を振って、のんびり歩き出す。

 しかし、思えばこの選択がまずかった。多少周りに騒がれても中庭に居たほうがよかったのかもしれない。


 しぶしぶ歩くサーシャの背中を強引に押しながら歩いていると、急にサーシャが立ち止まった。

「むぎゅう」

 私はサーシャの背中に顔を埋める形で、それはもう間抜けな姿で急停止させられる。


「げ。」と、サーシャのほうから聞こえた気がする。

「あら、なんとも騒がしいと思えば、お二人ですか。」

 と聞き覚えのある、大人びたエルフ族の声。

「何か騒ぎを起こしたんじゃないだろうな?」

 と語気が強めな、これまた聞き覚えのある竜人ドラゴニュートの声。


 視界はサーシャの背中に埋もれているが、声で誰だか分かる。まずい。

「何もしてねぇよ。ただ、メシ食ってただけだし。」

 私がサーシャの背中から顔を離すと、彼女は不満をあらわに、悪ぶった口調で答える。


「その言葉遣い、どうにかなりませんの?お姉さま。」

 リーシャ・エルーシ。それが彼女の名であり、この学園の四天王の一角、生徒会長「地に聳えし大樹ユグドラシル」であり、サーシャの妹である。

 サーシャと双子なのでは。と見紛みまごう程似ているが、リーシャのほうはロングヘアーな髪型で、サーシャと比べると身長は低めだ。

 そして、うん…、サーシャとリーシャで最も大きく異なるのは胸部バストだったりする。

 サーシャが、どちらかと言うと貧相な胸なのに対し、リーシャは制服の上からでも分かるほど、大きい。制服がきつそうである。

 サーシャの態度が悪いのも、「このせいもあるんじゃないかな。」と勘ぐってしまうほどだ。


 しかし、未だサーシャは喧嘩腰のままだ。

生徒会長ユグドラシル様に迷惑かけるような事はしてねーよ。」

「迷惑とかそういう問題ではありません。」

「じゃあ、なんだよ。」

三叉の槍トライデント・スピアの行く先々では色んな問題が起こるからな。会長はその身を案じているんだ。」

 今にも爆発しそうな(サーシャが勢いで爆破魔法エクスプロージョンを打ちかねない)中、リーシャと一緒に居た竜人ドラゴニュートの女性が割って入る。

 

絶妙なバランスで火に油を注ぐこの竜人もまた四天王最後の一人にしてこの学園の風紀委員長「断罪フォトン・レイ」の「リュカ」である。

 竜人と聞いて、翼や鋭くとがった爪、うろこなどの特徴を思い起こすかもしれないが、リュカの場合、それらの特徴はほとんどなく、普通にしていれば人間と大差ない。

 黒髪の短髪で、すらりとした手足…、女性にしては175cmほどと身長が高く、その整った甘い顔には同姓である私でもドキリとするものがある。


 こうして、偶々たまたまとは言え、聖ヨシュア魔法学園四天王が集結した。

 集結して


 四天王がそろった今現在、状況は思ったよりも良くない。

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