第5話 サーシャとの昼休み

「はぁ!?『魔法鍛冶』ぃ!?」

「声が大きいよ、サーシャ」

 

 私は大きな声を上げる友人をたしなめる。

 この素っ頓狂な声を上げるエルフ族の女の子は「サーシャ・エルーシ」といい、私の数少ない学友の一人だ。

 エルフ族特有のとがった耳に大きな青い瞳、金髪のショートヘア。性格は快活で、どちらかと言うと、その元気のあまりにトラブルを引き起こすことが多い。

 そして、何より魔法力の有無なんかでをしたりしない、竹を割ったような人物だ。

 私の一番の親友と言って差し支えない。


「ピィはほんと、そういうどマイナーなのが好きだよね。」

 ピィとは、私のことである。あまり、このあだ名は気に入っていないのだけど、サーシャはよく使う。


「シンドラー先生んとこに相談に行ったと思ったら、卒論テーマが『魔法鍛冶』って。いやいや、シンドラー先生に何吹き込まれたらそうなるんよ?」

「むぅ、そういうサーシャだって卒論のテーマまだ決まってないでしょ?」

 私は口を尖らせて言う。


 しかし彼女のほうはそれを気にするでもなく、

「まぁ、あーゆーのはフィーリングだって。そのうち決まるでしょー。」

 と、他人事みたいに言って、購買で買ったやきそばパンをパクつく。

 今は魔法学園の昼休みの時間であり、私とサーシャは中庭でお昼ご飯を食べているのだ。


「そんなこと言ってて、卒業できなくなっても知らないわよ?」

「いいもん、私たくさんの冒険家ギルドから引く手あまただし!

 まだ学生だって言ってるのに、『卒業を切り上げてウチに来ないか?』なんて気の早いギルドもいるくらいだしねー。」

 

 そうなのだ。こう見えてサーシャは極めて優秀な魔術師なのだ。もって生まれたエルフ族特有の膨大な魔力を有しつつ、驚くべきはその習得スピードである。サーシャは、学生の身でありながら、

炎系広範囲最強魔法「インフェルノ」

氷雪系広範囲最強魔法「ニブルヘイム」

風系広範囲最強魔法「ラスティーネイル」

 と、どれか1つであっても高度な魔術師が一生涯をかけて習得すべき最強魔法を三つも習得している天才、というか歩く天災なのである。

 ゆえに三つの魔法を操る彼女に敬意を表して「三叉の槍トライデント・スピア」と呼ぶ人が後を立たない。


「タイダルウェーブとアースクェイクがどうも難しいんだよねー」とサーシャは語るが、彼女は五属性【炎・氷雪・風・水・地】全ての広範囲最強魔法を習得するつもりなのだろうか…。


「んで、ピイ?結局、魔法鍛冶についての卒論ってなにすんの?」

「うん、誰にもまだそれはでね。

 『レイヴン』っていう魔法鍛冶師に会ってから方針を決めようと思うの。」


「お、秘密ってなによ?」

「言えないから秘密なんでしょうが!」

 そう、かもしれないなんて、簡単に口に出来るものではなかった。

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