第4話 補習は続く
「欠落ですか…。先生のほうがよっぽど乱暴じゃないですか。」
「ははっ、そうかも知れないね。でも、僕が言いたいのはそういうことじゃない。
君なら分かるんじゃないか?」
「えぇ、ドワーフ鍛冶で打てないものを魔法鍛冶で打つ。
反対に、魔法鍛冶で打てないものをドワーフ鍛冶で打つ。ということですね。」
つまり、棲み分けが出来ているということだ。
魔法鍛冶は「スーパーアロイ」を打てるが、よくて2~3種しか打てない。
一方、ドワーフ鍛冶は「スーパーアロイ」を打てないが、他のものなら大抵打てる。
ドワーフ鍛冶が衰退しないのは、つまりそういうことだ。
「ついでに、魔法鍛冶師の中でも『スーパーアロイ』を打てるのは珍しい部類だ。
そんな人たちは特別な才能があると言ってもいい。」
と、シンドラー先生から補足が加わる。
「ありがとうございます。魔法鍛冶についていろいろ分かりました。」
そう、私はお礼を言う。
「いや、君の勉強になったなら、それこそ本望だ。
しかし、僕のほうから君にも聞いてみたいことがあるんだ。」
「なんでしょうか?」
思ってもいなかった問いかけに私は心の中で驚く。
「さっき僕は、魔法鍛冶を『鍛冶師として欠落している』と言ったが、それを『特定の金属に対するスペシャリスト』という方に注目して見方を変えれば別の側面が見えてくる。君はどう考えるかい?」
「そうですね。少し考えさせてください。」
そう言って私はあごに手を添えて考える。これは私のクセだ。これまでこうやって考えた時に出た結論というのは、手前味噌であるが、意外といい結果を得られることが多い。
さて『特定の金属に対するスペシャリスト』ということは、その金属に対する専門家ともいえる。専門家が鍛冶師の真似事をするなんて思えばおかしい。
であるなら、あくまで鍛冶というのは副次的なものであって、本来の彼らの姿は鍛冶師ではないということになる。
「魔法鍛冶というのは彼らにとって『副産物』のようなものではないのでしょうか?」
「ふむ。続けてくれ。」
先生は否定も肯定もしなかった。
「はい。つまり、魔法鍛冶師とはあくまで表向きの顔であって、本当はもっと別の顔を持った何か…だと私は考えます。」
「なるほど、やはり、君は優秀な魔法研究者だ。
さすが、ラグナロックの名を冠するだけはあるね。」
先生は仰々しく私を褒める。褒められている…のだと思う。
「ありがとうございます。」
素直に礼を言うことにした。
「僕もピッピ君と同じ考えでね。授業でも言ったように魔法鍛冶師の技法は秘匿性が極めて高く、その原理は他のものに明かされていない。
端的に言うと、魔法鍛冶師というのはあくまで仮の姿でありその裏では
何か隠している。
と、そう思わないかい?」
「何か隠しているですか…、今日一番の乱暴な発言ですね。」
そういうと、先生はバツの悪そうに後ろ頭を掻く。しかし、先生のほうからは何も言わない。私の意見を聞きたいようだ。
「そうですね…。私は魔法鍛冶のことについては知らないことのほうが多いのでそのことはよく分かりません。」
率直に私はそう言った。
すると先生はこう言う。
「分からないことを解明していくのが研究者であり、幸運にも君は優秀な魔法研究者だ。」
「買い被りです。
…ですが、知的好奇心として魔法鍛冶の技法に興味はあります。」
この時点で私の心は決まっていたようなものだった。
「ふむ、それはつまり?」
「シンドラー先生、私の卒業論文について相談があります。」
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