第86話 旅の終着と新たな始まり(終話)

「おう、起きたか!!」

 朝日が窓から差す中、アルマが僕を抱きしめた。

「……寝てないよ。久々にパイプを咥えたらさ、なんか癖を思い出しちゃってさ。イライラして寝られなくなったんだよね」

 アルマが僕を小脇に抱えて、ベッドから飛び下りた。

「今すぐ病院だ。なんかあんだろ、禁煙なんとかって!?」

「……ないよ、こんな田舎に。冗談に決まってるでしょ」

 僕は笑みを浮かべ机の紙に目をやった。

「ん?」

 アルマがベッドを下りて、机の紙を取った。

「……なにか、呪文のようなわけの分からない事が書かれてるな」

「うん、呪文だもん。せめてアルマを人間に戻そうと頑張ったんだけど、なにせこんなのやった事ないからさ。色々な魔法から要素を引き抜いて、つなぎ合わせただけになっちゃった。術としては完成してる。って事は、なにをやったか分かるよね?」

 僕は笑みを浮かべた。

「ま、まさか、やっちまったのか!?」

 慌てるアルマを僕は睨み付けた。

「上手くいくわけねーだろ。こんな、クソみたいな呪文で!!」

 僕は怒鳴り、アルマに猫パンチをかました。

「……あっ、ご、ごご、ごめんなさい!?」

「……わたしに爪入りの猫パンチか。よくやった、そういうのを待っていたんだよ」

 アルマは僕の爪痕がクッキリ残った顔で笑みを浮かべた。

「それでいいんだよ、相棒。ぶつけるもんがあったらぶつけろ。当然、反撃はあるがな!!」

 アルマの強烈な平手が僕を吹き飛ばした。

「んだこら、掛かってこいや!!」

「……」

 僕は両手の爪を出した。

「おお、やるってか。こいや!!」

「……」

 僕はその場で飛び上がり、アルマの顔目がけて渾身の猫パンチを振り下ろした。

「ワシも混ぜろ!!」

 空中でいきなり乱入してきた師匠に蹴り飛ばされ、吹っ飛んだ僕の代わりに師匠がアルマと戦い始めた。

「……僕って、やっぱこんな感じ?」

 僕は床に座って、毛繕いを始めた。

 これには、気を落ち着ける効果もあるのだ。


「うむ、やりおるな!!」

「おう、この師匠ガチで強いぞ!!」

 傷だらけで笑みを浮かべる二人に、僕は無言で回復魔法を使った。

「……師匠って肉弾戦でも半端なく強いからね。僕は怖くて、間違っても手を出せないよ」

「確かに強いな。ここまで食らったのは、久々だぜ!!」

 アルマが上機嫌でいった。

「うむ、お前さんもやりおるな。猫の動きについてこれるだけでも十分だ!!」

「……僕もそれで追われたよ。本気で怖かったよ」

 アルマが僕を抱きかかえた。

「君の動きは直線的過ぎるな。簡単に先が読めるぞ!!」

「さ、先読みだけで動けるもんなの!?」

「うむ、人間の中でも希にこういう突然変異が起きるらしいからな。侮ってはいかんぞ」

 師匠は咳払いをした。

「ところで、二人はどうするつもりなのだ。本来なら、二人纏めてさらに封印しなければならないのだ。破壊神の力まで受け継いでしまっているようだからな。ちょっとみれば、とんでもない破壊衝動が渦巻いているのが分かるぞ。いつ目覚めてしまうか分からん」

 師匠がため息を吐いた。

「……だろうね。僕の中に封印したヤツから情報を集めてるよ。僕とアルマは滅ぼされない限りは、永遠に生き続けるらしいし、そんなに気合いで抑えていられるわけないからね」

 僕は笑みを浮かべ、呪文を唱えて両腕を差し出した。

 空間が円形に裂け、向こうにはなにもない草原が広がっていた。

「実はアルマに見せた呪文はこれ。結界魔法を駆使した、いってみれば僕が作った世界かな。ただの封印結界の中よりこっちがいいよ。アルマ、あっちに行ったら二度と帰ってこられない。ぶっ壊していい物はたくさん作ったけど、人は誰もいないよ。それでも良かったらいく?」

 アルマは笑みを浮かべた。

「たまに暇つぶしの魔物でも作ってくれるならな。こうなるとは思わなかったぜ!!」

 僕は小さく笑った。

「師匠、そういうわけでこれでお別れかな」

「うむ、やっと独り立ちを見送るようじゃわい!!」

 師匠が笑みを浮かべた。

「よし、もたもたするな。いくぞ!!」

 アルマは僕を小脇に抱え、迷うことなく円形の向こうに飛び出た。


「いよい二人きりってか。イチャイチャしようぜ!!」

 アルマがテントを張りながら笑った。

「一応、普通に村っぽいものもあるし、建物で寝泊まり出来るよ?」

「こっちの方が好みだ。終わったぞ!!」

 アルマがテントに潜り込み、僕も入った。

 アルマは僕を抱きかかえ、小さく息を吐いた。

「面白い旅だったぜ。これは、想定外だったけどな!!」

「過去形にするには早くないかな。人はいなくても物はあるよ。見てまわらなくていいの?」

 僕は笑みを浮かべた。

「それはもうちょっとあとだ。今は疲れたよ」

 アルマは僕を抱きかかえたまま横になり、そっと目を閉じた。

「……本当にごめんなさい。僕が巻き込まなければ」

 アルマに抱きかかえられながら、僕はため息を吐いた。

 しばらくそうしたあと、僕もそっと目を閉じた。


 僕のちょっとした好奇心とイタズラ心から始まった旅は、こうして一応の終着点についた。

 今後もこの世界で気楽にブラブラすると思う。

 僕は呪文に、わざとランダムに発生する要素をふんだんに盛り込んだ。

 結果が分かっていては、退屈してしまうからだ。

 つねに悔やんでいるのは、アルマを巻き込んでしまったことだった。

 もっとも、そうしなければ始まらなかった旅であり、悩ましいところだったが……。


(完)

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猫の使い魔 NEO @NEO

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