第85話 両方修復完了

 アルマに抱きかかえられていると、師匠が紙を持ってやってきた。

「まあ、こんなところじゃ。なかなか面倒だぞ」

 僕は師匠から紙を受け取り、ビッシリ書かれた文字と数字に目を走らせた。

「なにそれ?」

 アルマが聞いてきた。

「うん、ここと人間の間を分けてる結界だかなんだか分からな力場の魔力の種類とその分布データだよ。あれだけいっておいて、師匠がやっちゃったみたいだね。これがあれば、解除魔法が組めるよ」

 僕は笑みを浮かべた。

「……ついに出た、師弟連携。コイツら、絶対ただ者じゃないぞ」

 師匠が笑みを浮かべた。

「組めるかな。ワシはお手上げじゃ、反撃食らって焼き殺されるぞ」

「うん、もう組んだよ。解除しなきゃ、反撃はされない。一時的にごく短時間緩めれば師匠の気合いで通せるはず」

 僕は机の上で、自動筆記を追えたばかりの紙に目をやった。

 師匠は小さく笑い、その紙を受け取った。

「……そうじゃな。この呪文なら薄いところを狙って最大限の気合いをブチ込めば、なんとか通せるじゃろ。合わせ技一本じゃ!!」

「ちょ、ちょっと待って、合わせ技とか気合いとか何やららかす気だ!!」

 アルマが怒鳴った。

 僕と師匠は同時にアルマをみて、笑みを浮かべた。

『素晴らしいことだ』

「声色と口調まで変えるな。お前らが一番怖いよ!!」

 師匠は小さな笑いを残し、僕が呪文を書いた紙を持って家から出ていった。

「こ、こら、なにするんだよ!?」

「……うん、人間社会の瞬間修復、物だけね。面倒なのがあるから儀式魔法か。術者は多くても五人くらいかな」

 僕は小さく息を吐いた。

「……その様子、なんか嫌な事を隠してるな?」

 アルマがため息を吐いた。

「……儀式魔法は、メインの術者を支えるサブの術者にかかる負荷が凄いんだ。師匠も気合い入った人を選ぶだろうけど、僕の呪文じゃ何人残るかな。正直、師匠すら消えかねないよ。これが、僕の全力だね。でも、師匠の事だから意地でもあっちは直してくれるから」

 僕は笑みを浮かべた。

「……あっちなんてもう、どうでもいいのに」

 アルマが僕を抱きしめた。

「らしくない事いわないの。僕じゃ踵落とし出来ないからさ」

「……やったら、ぶっ殺すぞ」

 僕は笑った。

「猫の踵落としってレアじゃない。猫の踵ってどこにあるか知ってる?」

「どーでもいいわ!!」

 アルマは僕をベッドの布団にめり込む勢いで叩き付けた。

「……最近、荒っぽいよ」

「荒っぽくもなるよ。どっかで休む!!」

 アルマは布団にめり込んでいた僕を剥がし、もう一度抱きかかえた。

「……これさえあれば、大丈夫か」

 アルマは笑みを浮かべ、僕の頭を撫でた。


「うむ、優勢勝ちじゃ。あっちの修復も終わったぞ!!」

「……また、微妙な。判定勝ちって」

 アルマがベッドから立ち上がり、師匠に一礼した。

「礼には及ばん。一つ注文を付ければ、そもそもの原因を作った不届き者に蹴りでも入れておいてくれ!!」

 師匠が笑みを浮かべた。

「……もう、とっくに手を打ってあるよ。蹴りで済ませるわけないでしょ?」

 アルマが極悪な小さな笑みを浮かべた。

「……初めてみたかも?」

「……うむ、なかなかマジでブチキレておるな」

 師匠が小さく息を吐いた。

「まあ、物だけは戻ったぞ。あとは、ワシにはなんともいえんな」

「……私はもう違う世界の存在になっちゃったみたいだから、干渉したくても出来ないからね。あとは勝手にやれ!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「まあ、今日は休め。おかしいと思わぬか。さっき丸刈りにされたはずなのに、コイツどっか変?」

「ああ、いっちゃダメ!?」

 師匠の声を僕が慌てて止めたとき、軽く金属の音がして僕の全身の毛がなくなった。

「……なんで、みてるの?」

「……みてないと治すから」

 アルマは笑みを浮かべ、僕を布団に放り込んだ。

「はぁ、このモフモフがないとねぇ……モフモフ!?」

 アルマが僕を慌ててみた。

「……なに?」

 僕は笑みを浮かべた。

「うむ、まだまだコイツには勝てんな。では、また明日会おう!!」

 師匠は家から出ていった。

「……おい、私がお前に負けた的な感じだったな?」

「……し、知らないよ。なに、その殺意に満ちた目!?」

 アルマは僕を乱暴に抱えて横になった。

「ムカつくから寝る!!」

「……おやすみなさい」

 僕はそっと目を閉じた。

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