第84話 急げ、復旧

「さて、邪魔くさいヤツを引っ込めたところで、今度はワシの出番じゃな」

 師匠は笑みを浮かべ、杖を出した。

「……出た、師匠の時間復元魔法。僕も使えるけど、この精度が出ないんだよね」

 僕は笑みを浮かべた。

「……初めて、うちの子が自分より上っていったぞ?」

「……いっぱいあるよ、たまたま当たらなかっただけで」

 師匠は素早く呪文を唱え、杖をかざした。

 派手に閃光が走り、師匠が頷いた。

「うむ、復旧作業完了じゃ!!」

「ま、魔法一発かい!!」

 アルマがツッコミを入れた。

「……制限がもの凄く多いけど、簡単にいうと時間に働きかけて巻き戻しちゃう魔法。今まで破壊された所は、『なかった事』にされたんだ。もっとも、物だけね。人は戻せないから、空っぽの村とか多いかもね」

 僕はため息を吐いた。

「……あと、直せたのは猫の方だけ。昔からよく分からない結界があるみたいで、ここまで強い魔法になると遮断されちゃうんだ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「心配せんでいい。戦うために発動させたけど、復旧復興になったな。全大陸の全ての国が協力体勢で作業してるはずだぞ。そういう、同盟みたいなものがあってね」

 師匠が息を吐いた。

「……作業出来ればいいがのう。とにかく、メチャメチャなのだ。今回、甚大な被害を受けたのはあっちでな」

 アルマがため息を吐いた。

「……やりたくなかったけど、一回戻って自分の仕事くらいはしないとダメか」

「うむ、それも困難じゃろうな。感覚が鋭い猫だからなんとか見えるが、二人の姿を見ることの出来る人間は、恐らくエスパーという特異な人種のみだな!!」

「え、エスパー!?」

「……師匠から聞いてるけど、僕はインチキ臭いなって思うよ」

 ポソッと呟き、僕は窓の外を見た。

「……出た、たまにやる一刺し。って、それいい。私たち向こうに行ったら、誰にも見えないのかよ!!」

「……そういう魔法を作ろうとしたら、師匠にぶっ飛ばされたな。このスケベ野郎って。僕はそんな事考えてなかったのに、師匠の方がスケベだよね。これで銀行に入って、勝手にお金を持って帰ろうと思っただけだったのに」

 僕は小さなため息を吐いた。

「……う、うちの子が!?」

「うむ、分かってやってくれ。困窮しておったのじゃ」

 アルマが師匠を掴んだ。

「……お前も巻き上げた一人だろ!?」

「うむ、忘れた!!」

 僕は笑みを浮かべた。

「アルマ、あっちいこう。今なら持って帰り放題だよ!!」

 アルマのグーパンチが、僕の顔面にめり込んだ。

「持って帰るんじゃなくて、盗むっていうんだよ。ダメ!!」

「……そうなんだ。それはいけないことだね」

 僕は笑みを浮かべた。

「それはともかく、要するにわけ分からない結界をなんとかするしかないんでしょ。僕もずっとあれは謎だったんだ」

「待て、ただの結界なのかどうかも分からん。探りを入れただけで、消滅してしまった術士も多数いる。今のお前は、そのリスクを犯せる立場か?」

 師匠に聞かれ、僕は小さくため息を吐いた。

「アルマまで巻き込む上に、中にいる変なのまで出てきちゃうからね」

「そういう事だ。かといって、ワシの魔力では相手にならん。ちょっと考えようかな。それにしても、魔力の坊主と筋力の使い魔か。これはいい!!」

 アルマが師匠を掴んだ。

「……リンゴ潰せるけど、試す?」

「止めた方がいいよ。猫の中身なんて、みないに越した事はないから」

 僕がいうと、アルマが首をうなだれた。

「……みる物じゃないね。どこでどういう状況っていうのは、思い出すからいわないけど」

 アルマが師匠を投げ捨てた。

「まあ、時間をくれ。いずれにしても、何とかしないと復旧の目処も立たないじゃろうからな」

 師匠は家から出ていった。


「おい、いよいよ化け物になっちまったぞ!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「これで、なんで銀行から金を盗むなんてセコいことするんだよ。まだあるかどうかわからないけど、城の地下金庫だよ。半端ねぇから、あそこ!!」

「……僕のポケットには大き過ぎるよ」

 僕は小さく笑みを浮かべた。

「おい、なにその妙な余裕。すげぇ、ムカついてきた!!」

 アルマは僕を抱きかかえた。

「ったく、どうしようかねぇ。誰にも見えないんじゃ、あっちはなしだな。意味がねぇ!!」

「……こっちも微妙だけどね。自分が化け物になるとはね」

 僕は笑みを浮かべた。

「ちなみに、なにか方法があって元に戻れるってなっても、僕はダメだからね。体の許容量を超えちゃって、自分は消滅するわあの変なのが復活しちゃうわで、全くいい事ないからさ」

 アルマがため息を吐いた。

「私だって見た目よりはバカじゃないからな。最初から察しがついてたよ。そういう事を押し付けるための使い魔なんじゃないの?」

「……僕はそういう主になりたくないの。そうじゃなくたって、確信犯で人間を無理矢理そうしたんだもん。やったら、ぶっ殺されるよ」

 僕は苦笑した。

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