第83話 封印完了

「うむ、十人程度ならもうこの村に集まっている。すぐにでも出来るぞ」

「よかった。僕の嫌がらせ結界で、思い切り力を削いだから出来る事だから。急いで!!」

 師匠が頷いて家を飛び出ていった。

「おい、嫌な予感がするぞ。どんなの作りやがった?」

 アルマが僕を睨んだ。

「……現状で取れる最善の魔法。封印する事に変わりはないよ」

 僕は笑みを浮かべた。

「どうだっていいがダメなら、どうなってもいいに変えておくよ。どんな小細工されようが、気合いと根性で止めてやるってね。魔法使いの意地があるからさ。これでも」

 僕は笑みを浮かべ椅子から下りた。

「ちょっとはマシかもしれんが、似たようなもんだ。ムチャするんじゃない!!」

「あの呪文自体がムチャだよ。そこまでしないと止められないなら、ムチャするしかないんだよ。誰かが」

 僕が小さく笑った時、体が淡く光り始めた。

「おっと、始まった。いかないと術が失敗しちゃう」

 先手を打って扉を閉めたアルマに笑みを送り、僕は窓から飛び出た。

「ああ、テメェ。ズルいぞ!!」

 四足走行状態のフルパワーで逃げる僕に、アルマが変な呼吸法をしながら猛追してきた。

「ね、猫に追いついてくるって、どんな人間だよ!?」

 僕は壁伝いに家の屋根に登り、飛び渡りながら進んだ。

 しかし、アルマとの距離は変わらず、凄い形相で追ってきた。

「猫お得意の三次元行動についてくるって、どんな運動神経してるの!?」

 僕はこの時、アルマを敵に回したらいけないと思った。

 途中で地面に飛び降り、村で儀式魔法をやる時に使う裁断に向かって全力疾走した。

 アルマを阻止しようと村中の人が立ちふさがったが、それを片っ端から投げ飛ばし始めた。

「……お疲れ様です」

 僕は祭壇に駆け上り、すでに術の最終段階に入っていた魔法陣の真ん中に転がり込んだ。

 瞬間、魔法陣がはげしく輝き、僕の体が爆発的に光を放って消えた。

「……ふぅ、この体ならって賭けたんだけど、どうやら勝ったみたいだね」

 僕は笑みを浮かべた。

 次の瞬間、アルマの踵落としが僕の頭頂部にめり込んだ。

「は、はぐ……」

 僕はバッタリ倒れた。


「うむ、勇者に容赦ない踵落としか。悪くないぞ!!」

「馬鹿野郎、勝手に勇者に仕立ててるんじゃねぇ!!」

 目を覚ますと家のベッドで、師匠とアルマがやり合っていた。

「……猫に踵落としって、もの凄く器用だよね?」

 僕の声にアルマが睨んだ。

「おい、聞いたぞ。まあ、封印は間違いなかったけど、お前の体に封印する事ないだろ!!」

 僕は笑みを浮かべた。

「封印場所として使えそうだったのが、僕と同条件のアルマだったんだ。もし、失敗したら力負けして一瞬で消滅するって分かってて、僕がアルマを選択するわけないでしょ。こんな気持悪いもの嫌だろうし」

「そういう時は、迷わず私だろ。いっつもそうやって……」

 僕は小さく笑った。

「それに、僕の体に封印したって事は、やりたい放題なんだよ。同時に、僕のエネルギー源でもあるんだ。要するに、ただの燃料野郎って事だ。猫のね!!」

「ね、燃料野郎……コイツ、結構エグいからな」

 アルマが苦笑した。

「なんで私にやらせないのさ!!」

「こんなキモいのは僕の担当でしょ。せいぜい、キモく使ってやるから」

「まあ、こんなイカれた魔法を考えるのはコイツくらいじゃ。といっても、今回ばかりは要するにブチキレたというやつだな。燃料どころでない」

 師匠がニヤッと笑みを浮かべ、僕もニヤッとした。

「……お、おい、なにやってるんだよ。教えろよ!!」

 アルマが僕を掴んで揺さぶった。

「……」

 僕は無言でニヤッとした。

「うわ、なんかいえない事やってる。怒るなよ……」

 アルマはベッドに座り、僕を膝に乗せた。

「らしくない事すんなよ……」

「らしい事したらこうなったんじゃん。つまり、嫌な事を徹底的にやらないと勝てないって事。こういう敵もたまにはいるでしょ?」

 アルマは鼻を鳴らした。

「そりゃいるけど、いつまでも引っ張るなよ。首跳ねて終わりじゃないから、面倒なんだよなぁ」

「それが魔法戦だよ。封印結界なんて、何万年とか何十万年……だったりだからね。綺麗に終わらないんだ」

 アルマがため息を吐き、僕の背中を撫でた。

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