イトスギと病んだ翡翠と

そうしろ

どうしようもない彼等の駄弁

男「よう」

少女「お久しぶりです、おにいさん」


男「ほら、珈琲。温かいのと冷たいの、どっちがいい?」


少女「缶コーヒーにおいてなかなか聴かない二択ですよ、それ。普通は微糖か無糖か、とか、そういうのですーーー冷たいので」


男「そうかね」

少女「そうです」

男「そうかも」


男「まぁ、でも、俺たちは普通じゃない。だろ?」

少女「えぇ、まぁ」


少女「いくらか、人間としての程度は低いでしょうねーーー世間の普通の皆様方より」


少女「普通、【自分の生まれてきた意味】なんて胡散臭いモノ、買いませんよ」


男「そうだな」

男「その通りだ」

男「定価の<<二億円>>が高過ぎるからって、寿命の半分を、担保にはしないんだろう、みんなは」

少女「違約金、とか言ってましたね。お金になるんでしょうか」

男「俺たちみたいなもんの人生の、さらに余りもんなのにな」


男「……で」

少女「で、とは」

男「……今日は、どうだったんだ」

少女「メモの用意はいいんですか」

男「忘れないよ。忘れたくてもな」


少女「脚にやられましたーーー七ヵ所。煙草の吸殻ですね。あのひとたち、吸いもしないくせしてわざわざどこからかパクってくるんです」

少女「いたぶるためだけに」


男「……銘柄は」


少女「はい?」


男「煙草の銘柄、なんだったか分かるか?」

少女「それを知ってどうするんでしょう。ほら、見えません?」


男「なにが」

少女「今、私の頭上に多分おっきいハテナマークが浮いてると思うんですけど……銘柄がどうかしたんですか」

男「……俺が」


男「俺が好きな銘柄だったら、げんなりするから」

少女「ーーーそんなことだろう、とは思いましたけどね。あいにく、覚えてません。箱が白くて、いやに甘ったるい臭いだったこと以外は」


男「……キャスターかぁ」

少女「あ、それですね。今おにいさんが咥えてるやつ」

男「しかも火を忘れた。最悪だ」

少女「最悪ですね」


少女「まぁ、でも、あれですよ」

少女「これでうっかり、おにいさんが私のことを忘れるなんてことはなくなりましたね」

男「多分だけど、それはもとから除いていい可能性だ」


男「君は、俺の生まれてきた【意味】そのものなんだから」

男「俺は、君という人間の【伝記を書く】ために、この世に生を受けたんだから」


少女「きちんと名作にしてくださいよーーー私が、【凄惨な虐めの末に自殺する】ような少女に見えるように」


男「見えるというか、事実そうだ」

少女「割とそんな気も起きなかったんですけどね、今は案外、しっくり来てます」


男「そして、俺が書いたドキュメンタリーで、君という存在はセンセーションを巻き起こす」

少女「それは多くの人々に感銘を与え、結果ーーー今の私みたいな、カワイソウな美少女は劇的に減ると」

男「それでもゼロにはならないのが、この世界のリアルなんだろう」

少女「ねえちょっと、ツッコんでくださいよ、せっかくボケたのに」


男「もし、これで俺が名作を書けなかったらどうなるんだろうな。俺たちの寿命半分は<<持っていかれる>>んだろうか」

少女「まぁ、その頃には私はもういないでしょうけどーーーおにいさんの寿命は取り立てられるんでしょうね」

男「……がんばらんとなぁ」

少女「ほんとですよ」


少女「せめて文章のなかでは、きれいに書いてくださいね」

男「任せてくれーーーそれくらいはな」


男「……珈琲が切れた」

少女「はい」

少女「温かいのと冷たいの、どっちがいいですか?」







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イトスギと病んだ翡翠と そうしろ @romangazer

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