戦争の煙(後半)
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今回の作戦は一定時間の基地の防衛。その上、出来るだけ多くの敵を倒し、戦力を削ぐことだった。
作戦と戦況の説明を受け、武器庫に飛び込んで愛銃のHK416を取る。数ヶ所の簡素な点検をしてから、スリングで肩に吊り、ハンドガードに取り付けられたグレネードランチャー用の40ミリグレネードと、スモークグレネードを腰のポーチにしまう。
隠密用のサプレッサー付きG17も忘れない。
416のマガジンを全身の弾薬ポーチにしまい、武器庫を飛び出す。
最後に、最愛の妻と、愛娘との家族写真の入ったロケットペンダントに軽く口づけをして、戦場に向かった。
受けた説明通り、確かに前線は押されていた。最前線では綻びも出始めている。
作戦終了まで時間がないため、一か八か、2つの塹壕を越え、敵の前線の裏に回り込む作戦に決めた。
前線に向けて走っていると、同じ事を考えているのか、前方に敵の姿が見えた。
こんなときこそ416の出番だ。
敵の背後に回るよう塹壕内を走り、距離を詰めながら照準を合わせる。
俺の足音に気付き、こちらに振り返るがもう遅い。
G17の利点である、フルオート射撃で弾を撒き散らす。
まぐれか、はたまた自分の腕か、いくつかの弾は頭に命中し、脳漿を撒き散らしながら生命活動を止めた。
がしゃんと音を立てて敵の持っていたMP5が落下し、同時に力を失った身体がどさっと崩れ落ちる。
足元に、不運な友軍の死体が転がっていた。勇敢にも戦死した同胞に、目を閉じ、心の中で手を合わせる。
何故か、俺のと同じドッグタグがついていたが、これ以上死体に構っている暇はない。
味方の投げたグレネードの爆発とともに塹壕を渡る。
端とはいえ、姿を晒すのは危険がつきまとう。
なんとか見つかる事もなく、敵地の塹壕に侵入できた。
数では負けていないが、優勢とあってか士気の差がある。
トリガーハッピーをしている敵の背中の並ぶ塹壕に、腰のスモークグレネードのピンを引き、静かに転がし入れる。
壕に煙が充満するより先に、端にいた敵達にグレネードランチャーをお見舞いし、吹き飛ばす。
突然現れた煙と爆発で、前線は混乱していた。異国の言語の叫び声が聞こえる。
パニックからか、見えない煙の中で同士討ちが始まる音もする。
10メートル先も見えない中、片っ端から動いたものに銃弾を叩き込んでいく。
弾が無くなれば弾倉を交換し、それは5分ほど続いた。存分に暴れまわった。
実に6本のマガジンを使い果たし、7本目を差し込んだ所で煙が晴れてきた。
今まで無風だったからここまでスモークが続いた。俺には、お天道様も付いていたようだ。
完全に煙が晴れると、さっきまで意気揚々と撃っていた敵達の姿はなく、物言わぬ肉塊と血溜まりができていた。
念のため、数ヵ所の通路も確認したが動くものはなく、敵前線を完全に制圧した頃、通信端末に指令が入った。
『作戦終了。総員、直ちに帰投せよ。』
良かった。今回の戦場でも生き残る事ができた。
また、妻のエマと、娘のエミリーのもとに帰ることが出来る。
国のため、軍のため、家族のため、自分が生き残るために殺した肉塊達に十字を切って、硝煙の匂いのする前線から離れる。
「ふぅ…」
それを見届けてコントローラーを手放す。長時間のマッチからか、非常に目が疲れた。
時々、俺は集中しすぎるとキャラと一体化する気分になる。
だが、このキャラに家族がいるなんて設定は無い。俺の見た彼が、本当の彼なのかは俺にも分からない。
モニターに映し出される、『Team Death Match Win!』の文字列。
画面越しに見る、基地に戻って行く彼の顔は、心なしか安堵に満ちているように見えた。
トアル戦場ニテ。 楠泰 ラー @Kusutai_Ra
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