トアル戦場ニテ。
楠泰 ラー
銃弾の重さ(前半)
平地に掘られた塹壕の上を鉛弾が飛び交う。それを受けて次々と倒れてゆく友軍の兵士。10分前までは隣で笑いあっていた戦友も、今では戦友だった“もの”に成り果てていた。
しかし、それにももう慣れた。
ただ冷静に、スコープの中心に敵の頭を捉え、引き金を引く。バレルの先に取り付けられたサプレッサーからくぐもった破裂音が響き、.338ラプアマグナム弾が飛び出す。
唸りを上げて飛翔したそれは見事命中し、敵の頭が吹き飛ぶ。胴体に当たってもほぼ即死するラプアマグナムを頭に受けて無事な者はいない。
頭を失った体は、力が抜けたように地面に崩れ落ちた。
スコープを覗いたまま、馴れた手つきでボルトを引き、次弾を装填。哀れな獲物の頭を中心に据え、再び引き金を引く。
山なりの軌道を描いて飛んでいった銃弾が頭と体を別つ。
それを3回繰り返し、ちょうどマガジンの5発分を命中させたところで、ボルトを解放して弾装を取り替え、またボルトを戻す。
スコープを覗き、次の獲物に狙いを定めようとした時、3時の方角から知らない足音が。
バイポッドで構えていたL115をその場に置き、腰のガバメントに手を伸ばす。コッキングをして、初弾を装填しながら塹壕を進む。
先程、ぱららと軽い銃声がしたため、サブマシンガン持ちだろう。このような狭い所では小型の銃の方が取り回しやすく、有利だ。視線と銃口の向きをリンクさせ、足音を立てないように進む。
T字路にさしかかり、両脇を確認。少し先に、こちらに背を向けている人影を発見。明らかに服装が違うため、すぐに遊軍ではないと分かった。
M1911の銃口をその敵影に向ける。ハンドガンにしては遠い距離だったが、そこは長年の腕前でカバーする。
一撃で仕留められるよう、敵のシンプルなヘルメットに狙いをつける。ライフリング加工のしてある.45ACP弾にヘルメットなど意味をなさない。
引き金を引き絞る。
ぱすっと間抜けな音が響き、先程より小さな弾が頭へと飛んでいく。
と、思われた。
引き金を引くと同時に敵は、右の通路へ曲がっていった。敵の頭の数センチ後ろの土壁に着弾する。
敵も、撃たれたことに気づいたようだが、そのまま身を晒してくれるほど馬鹿でもなかった。あちらも身を引き、こちらの様子を伺っているよう。更に、単発だったため、武装がハンドガンであることも知られてしまった。
今、圧倒的優位にいるのは敵側だった。
同じ場所に留まるのも良くない。相手に悟られないように、位置を変える。
通路を駆け抜け、逆側に回り込む。前線に近づいてしまう形になったが、今はそんな心配をしている暇はない。
まだ、相手の背後に位置しているはず。
敵のいると思われる通路を覗きこむと、背後からさっきの足音が。しまったと思ったがもう遅い。
ぱらららと飛んできた9ミリ弾の群れに全身を射抜かれる。即死ではなかったが、身体はぴくりとも動かない。
穿たれた穴から、血がどくどくと流れ出すのが感じられる。不思議と痛みはない。
ああ。もうすぐ死ぬのだろう。愛する妻、エマ。最愛の娘、メアリー。すまない。俺はもう帰れそうにない。
ざくざくと、土を踏み鳴らしながらサブマシンガン使いが近づいてくる。わざわざ俺の元に来たそいつを、俺は睨んだ。
最期、奴の無感動な目と目があった。ぴたりと俺の頭に合わせられたMP5の銃口を見つめる。
奴が何かを呟いたが、異国の言葉は分からない。俺は不敵に笑みを浮かべて見せた。
銃口の奥が光るのを見て、意識は途絶えた。
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