まだ何の結果も出しておりませんが私見をひとつ

兵藤晴佳

第1話 テーマを先に立てる

 中学校・高校で作文や小論文の書き方を教わるときに、誰もがおそらく「テーマを先に立てなさい」と釘を刺されたことだろう。

 それは、間違った指導ではないと思う。

 なぜなら、学校や入試で書かされる文章は「意見や感想を述べる」ためのものだからである。その「意見や感想」が「テーマ」なのだから、先に立てておかなければ文章の構成も何もあったものではない。

 それを「かくかくしかじかについて述べたい」と最初に提示するか、最後の最後で鮮やかに「実はこういうことを言いたかったんだよ」と文章全体をひっくり返してみせるかはともかくとして。

 しかし、小説は違う。読者が求めているものは「テーマ」ではなくて「テーマを持ったストーリー」であり、「そこに引き込んでくれるプロット」である。これを因果関係でまとめ直すと、「プロット」があって「ストーリー」があって「テーマ」があることになる。

 そりゃあ、作者にしてみれば、もしかすると遠大なテーマが先行することがあるかもしれない。でも、それが目的なら、率直に文章で伝えればいい。明確な論立ての下に、評論を書けばいいのである。

 もし、伝えたいことが漠然としているなら、まず、その思いを書き綴ればいい。ものみな全て終わるものであるから、それ以上は書けないというところで文章を止めればよい。これを、「思いにしたがって書く」ことから「随筆」という。

 だが、小説でこれをカマされると、読者としては甚だ迷惑だ。これは戯曲にしてもアニメのシナリオにしても同じ。ラジオなんかで聞くと分かるが、作品の受け手が求めているのは、言葉によって再現される「ドラマ」、すなわちその瞬間に再現される「ここのいま」だからだ。この、「遥かな過去や未来」に「どこかで起こった」ことを読者が「目の当たりにしている」と信じさせる手段が「プロット」である。

 映画『FAKE』の冒頭で、監督でもある名優オーソン・ウェルスが「映画は構成である」と語ってみせるのは、まさにこの「プロット」の妙であるといってよいだろう。小説にしても同じことで、散文詩の形を取るのでもない限り、その生命は「プロット」すなわち「構成」にかかっているといえる。

 したがって、読者の立場から、表現手段として小説を選んだのであれば、「いま、ここにない」ものをどう描くのかを真っ先に考えたほうがいい。描くものはあなたの心の中にあり、あなた自身だって、それを形にすることを望んでいることだろう。

 もし、テーマが先にあるのだったら、いったん心の中にしまい込んだほうがいい。それはあなたの想像力を小理屈の中に閉じ込めてしまうからだ。

 テーマとは、あなたが現実を捉える世界観そのものである。それは本来、形を持っていないものだ。だから、他者に対しては「~は~である」という主語・述語の論理だけでまとめないと伝えられない。

 それに従属させられたドラマは、「いま・ここ」でない「いつか・どこか」を描くことはできない。その「本当はどこにもないもの」は、「いま・ここで」読者に作者が垂れる説教の中に閉じ込められて、リアリティを失ってしまうことだろう。

 あなたにしかない世界観は、プロットを立てる際に、その場面に描かれた登場人物や状況という形を取って出現する。だから、敢えて「立てる」必要はない。やらなければならないことは、あなた自身にウソをつくことなく、それらを丁寧に設定することだ。

 その人物の背負う人生が、その状況を生み出す因果が、ドラマにリアリティを与えるプロットを構成する。それが物語ストーリーに始めと終わりを与えたとき、あなたは初めて、自分が読者に伝えたかった世界観テーマに気付くはずである。

 そんなわけで、「テーマを先に立てるべきではない」のだが、肝心なのはここからだ。

 プロットが示すストーリーから見えてくるテーマは、「~は~である」という論理でまとめることができる。それに照らしたとき、まだ描き得ることはないだろうか? あるいは、構成を変更する余地はないだろうか? 

 あるならば、大いに書き直すべきである。文章を書く前に、プロットを。

 つまり、ドラマをを書く骨組みとなるプロットより「先に立てる」べき「テーマ」は、プロットを構成することによって自らたどりつくものだといえる。

 それは、あなたが自らに向き合う作業でもあるだろう。あなたが物語を紡ぐためのプロットは、あなた自身に自画像を見せてくれる。それはたぶん、見るに堪えないほど醜く恐ろしいものになるだろうが、あなたが小説を書くためには、まず、それに耐えなくてはならない。

 そんなわけで、まずは、私が。

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