18.子狐と剣士はたどり着く
ティオをリズから研究所に帰すのは心配だったため、ひとまず泊まっている宿の住所を教えて送り出した。
小さくなっていく背中を見送りながら、ルティリスはこれからのことを考えていた。
どういうわけか、事が大きくなっている。ライズまでもいなくなっているとすると、本当にロッシェの言う通りリトはライズと一緒にいるのかもしれない。
幾ら考えてもどうしたらいいのか分からなくて傍らに立っている剣士を見上げると、彼は腕を組んで考え込むような表情をしていた。
「ルティリス、引き続き聞き込みをしようか。何も手がかりがない以上、それしか方法はないだろうしね」
「ライズさんの特徴も、一緒に聞いてみた方がいいですか?」
「いや」
言葉を一度切って、ロッシェは口許を緩める。
「この近辺で変わったことや気になることがなかったか、という方向性でいってみようかな」
「この辺で気になることねえ。あるにはあるけど」
聞き込みの切り口を変えてから、一人目に尋ねたのは
「どんなことですか?」
「この街を抜けたところの森にね、妙な洋館があるのよ。多分、貴族のお屋敷なんでしょうけど、館のデザインも物寂しくて、高い塀と門扉に囲まれているの。おまけに最近では周辺に兵士もうろうろしているみたいだし。なんかおっかないのよねぇ」
それくらいかな、と女性は続ける。
街を抜けたところにある森の中にある洋館。どれくらいの森かは分からないが、距離はそれほど遠くないだろう。武装した兵士がうろついているのなら、街の人がこわがるのも無理はない。
「どの道を行けば、そのお屋敷に行けますか?」
気が付くと、ルティリスはそう尋ねていた。直接確かめたわけでもないのに、その屋敷にリトとライズがいると確信している自分に内心驚く。
「お嬢ちゃん、危ないわよぉ。絶対アヤシイ人が住んでいるに違いないんだから」
「大丈夫です。わたしは弓もできるし、蹴るのも得意です!」
えへへと笑って答えると、女性はますます心配そうに目を細めた。
「まぁ、あんた
ゆっくりとした言葉で、
街を抜ける道は歩いてそれほどかからなかった。森に入ると街にこもっていた食べ物とヒトの混じった匂いが消える。リトの匂いが判別できるようになり、方向が分かる。金毛の耳を跳ね上げ、隣のロッシェを見上げた。
「ロッシェさん、リトさんここを通って行ったみたいです」
「足跡も残っているから、彼がこの道を通ったのは間違いないみたいだね。行ってみようか」
「はい!」
もう時間は真昼が過ぎただろうか。
獣道ではなく、舗装された道が続いている。匂いをたどっていくと、先ほどの
デザインがシンプルな館だった。ルティの身長よりも高い塀が続いていて、大きな門扉の前や敷地内では兵士がうろついていた。
「本当にたくさんの兵士さんがいますね。リトさんとライズさん、本当にここにいるんでしょうか?」
「なんなら、いるかいないか賭けようか? 僕はいるに賭けるよ」
賭けるという言葉に、ぱちぱちとルティリスは目を瞬かせる。
村で育った彼女に賭博の意味が分かるはずもなく、ロッシェは肩透かしを食らうことになった。
「じゃあ、わたしは実際にあの兵士さんに聞いてみます!」
はりきって宣言すると、ロッシェが口許を緩めて微笑んだ。きっと行ってもいいんだと思ったので、見張りをしているらしい兵士に近づく。
「すみません、お聞きしたいことがあるんですけど」
話しかけると、兵士はルティリスの方へ目を向けた。その顔は無表情だったが、気にせず続けることにする。
「人を探しているんです。リトアーユっていう黒髪の
ピクリと兵士の眉が動いた。彼は知っている、とルティリスは勘付く。兵士はすぐに腰に差してある剣の柄へと伸ばした。
しかし、ルティリスの方が早かった。
野生の獣が獲物を狙う時のように、オレンジ色の目を眇めた。軽く跳躍してから身体を半回転させ、容赦なく兵士の顔面に蹴りを入れる。
ドサっと倒れる音と、彼女が地面に着地したのはほぼ同時。
倒れ伏したまま動かない兵士を一瞥してから、くるりとロッシェに向き直って、ルティリスは笑顔で言った。
「やっぱり、リトさんとライズさんはここにいるみたいです!」
「
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