17.逃げろ!
「所長ッ!」
鮮明にライズの叫び声が耳に届いた。同じ
頭の中がはっきりとしているのだ。
これは妙なことだった。記憶に残っている
リトが得た知識は著名な賢者からの確かなもので、事実であるはずだ。
一体、どういうことなのか。彼には全く分からなかった。
どちらにしろ、再び訪れたこの好機を逃す手はない。もう一度拳を作り、黒髪の魔術師は勢いよくレイゼルの腹を打った。
「……がッ!」
反動で牙が肩口から離れ、赤髪の男は身体を二つに折ってくずおれる。すかさずリトは上から乗りかかるように押さえつけた。
「今だ、逃げろ!」
わずかな隙をライズは無為にしなかった。すぐに本性の狼になり部屋を飛び出した。
噛まれた首筋からあふれた血が、肌の上を滑っていく。
少量だから死にはしない。特に問題はないだろう。
これでいいとリトは自分に言い聞かせた。ライズも必死で逃げるだろう。――そう、ホッとしたのもつかの間、押さえ込んでいたレイゼルの肘がリトの鳩尾を打った。
「……ッ!」
声も出なくなり、一瞬呼吸ができなくなる。その隙に起き上がったレイゼルは、身体を折ったまま固まるリトの腹をを蹴り上げる。
「君は、他の者のように大人しく喰わせてもらえるというわけにはいかないようだな」
「……俺も
真上から強く腹部を踏まれて、思わず悲鳴がもれる。ギリギリと踏みつけられて、激痛が走った。
「今度は坊やを逃がしたか、リトアーユ。二度も情けをかけてやったのに、よほど君は私を侮辱しているらしい」
スラッと金属音が響く。足蹴にされたまま動きを封じられて、リトは黙ってその音を聞いていた。
喉元に突きつけられる刃。見覚えのある片刃剣。それはリトのファルシオンだった。
「喰らえぬのなら、殺してやるよ。この、君の
剣の刃が鈍く光る。
額に汗を滲ませるリトを見下ろしたまま、赤髪の
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