14.手がかり

 結局、昨日は手がかりを得ることはできなかった。別の場所で聞き込みをしていたセロアとルベルも同じだったようだ。

 それでも諦めずにルティリスは翌日もロッシェと一緒に街に出ていた。


 リトが姿を消してから三日が経とうとしている。何があったのか不安でたまらないが、ロッシェの勧めで場所を変えて聞き込みをすることにした。


「あれ、この人」


 尋ねること何人目かで、相手の表情が変わった。すぐにルティリスは耳を立てて聞く体勢に入る。


「知っているんですか?」

「いや、知らないんだけどね。でもさ」


 そう歯切れ悪く答えたのは、人間族フェルヴァーの若い男性だった。ルティリスは黙って続きを促す。


「さっき、この似顔絵と同じ特徴の魔族ジェマについて聞かれたからさ。キミたちもこの人探してるんだね」


 期待に沿うような答えではなかった。けれど、この情報を聞き流して無視してはいけない。

 直感的にルティリスはそう思った。


「どんな人に聞かれたんですか?」

「んーとな、チビっこい翼族ザナリールの女の子だったかな。髪と翼が空色の。訳ありみたいで泣きそうな顔をしてたからさ、なんだかこっちが申し訳ない気持ちになったよ」


 ルティリスはオレンジ色の目を見開く。頭の中で、ひとりの少女の顔が浮かんだ。


「ありがとうございました」


 ひとまず丁寧にお礼を言ってその場を離れることにした。

 人がたくさん行き交う雑踏の中、思わず立ち止まる。考え込むように黙り込んだルティを見て、ロッシェが口を開いた。


「ルティリス、さっきあの人が言っていた翼族ザナリールの子に心当たりがあるのかい?」

「たぶん、ティオちゃんだと思います。前に会ったことがあって、リトさんが働いている研究所の所員さんなんです。ティオちゃんも、どうしてリトさんを探しているんでしょうか」


 ルティリスにはいくら考えても分からなかった。リトは休暇を取って旅に出ているのだし、仕事の件でティオが探す理由が分からない。訳ありみたいだという、先ほどの言葉がルティリスの頭に引っかかる。

 考えすぎて唸り出した狐の少女を見て、ロッシェは口許を緩め、まるで父親が幼い娘に答えを与えるように言った。


「それは、本人に直接聞いてみた方が早いと思うよ。まだこの街にいるだろうし、ひとまず彼女を探してみようか」

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