12.聞き込みの途中で

 昼間の街はやっぱり人が多かった。

 たくさんの食べ物やヒトの匂いが混じっていて、予想通りリトの匂いが分からない。それでもロッシェが彼の似顔絵を描いてくれたので、ルティリスは諦めないでいようと思った。


 今日一日で何件目かの家の前でルティリスはノックをする。すると、出てきたのは淡い水色の髪の女性で、不審そうに目を細めた。


「何か用かしら」

「あの、人を探しているんです」


 初対面の女性相手に緊張で高鳴る心臓をおさえながら、ルティリスは似顔絵を女性に見せる。


魔族ジェマの男性で、リトという名前の人を知りませんか? 容姿は黒髪と黒い瞳で、いつも黒い長衣を着ているんですけど」


 率直に用件を言ったことで女性は少し表情を和らげた。腕を組み、ルティリスの持つ似顔絵をじっと見つめる。


「うーん、見たことないわねえ。ねぇ、このヒトの部族は何なの?」

「そ、それが分からないんです……」

「そう。部族によっては特徴があるから、分かるかもしれないと思ったんだけどねぇ。例えば、吸血鬼ヴァンパイアの部族は人型の姿でも鋭い爪と牙を持ってるじゃない?」


 そういえば、ルティは本人からリトの部族について聞いたことがなかった。聞いてみようと思い立ったことがなかったし、彼自身もあまり自分については語ろうとはしなかった。


 出会ってからしばらく経つが、ルティはリトについて知らないことの方が多いことに今さらながら気付く。

 知っていることといえば、彼の職業と住んでいる別宅くらいだ。リトの部族のことは勿論、彼の両親や少し前に亡くなったという妻のことも、何も知らない。


「ごめん、あたし分からないわ。お役に立てなくてごめんなさいね」


 そう言って、魔族ジェマの女性は家のドアを閉めてしまった。途端に、気持ちと一緒に金毛の耳と尻尾が垂れる。


「彼はこの辺りには来ていないようだね。ルティリス、少し場所を移動して聞いてみよう」

「はい」


 口許を緩めて、ロッシェが笑む。頷いて、彼女はつられたように微笑んだ。


 うん、頑張ろう。リトさんを見つけるまでは、絶対に諦めたりはしない。

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