77:私は純粋に嬉しかったのですよ。

 そういうわけで、私が高二、彼が高一の二学期の終わりごろ。

 中二のその女の子はあっというまに私に懐いてくれて、とんとん拍子に文芸部に入部することになりました。


「文芸部ね、いまね、高校生の男子ばかりなんだ。年上の男子ばかりで怖かったら私に遠慮なく言ってね?」と言ったら、「はい! 菜月先輩にすぐに言います。菜月先輩がいるから安心です!」みたいに返してくれました。

 いまにして思うとほんと彼女は人間づきあいがうまかったのだなあ……と、思います。当時はただかわいいなとばかり思ってましたが、なかなかに、器用でしたたかな面もあったのでしょう。


 もともと茶道部などの文化部をいくつか兼部していたようで、彼女にとってはその内のひとつに文芸部が加わったということになります。

 他の部活や習いごとや勉強、そして中学の生徒会もやっていて、またお家の門限などが厳しめだった関係もあり、「毎回活動に参加できないかもしれませんが、いいですか?」と申し訳なさそうに言われました。もちろんオッケー、と私は返しました。だって、文芸部に毎回参加しているのなんて、それこそ私くらいなもんでしたから――。


 当時の髪型は長めのおさげで、大層かわいらしい女の子でした。真面目ふうで優等生ふう、でも硬すぎない、人気者の学級委員長ふうとでも言いますか。中学の制服も着こなしていましたし。

 茶道をはじめ雅なことがたくさんできること、生徒会もやってること、中学で成績が非常によいらしいこと、愛想がいいこと、お家がかなりしっかりしてそうなこと――それらが相まって、まるで漫画に出てくるみたいな優雅でおっとりとしたお嬢さまに思えました。



 ほとんどがやはり高校生男子ばかりの部員たちを前にして彼女を紹介するとき、私はやたらと喉が渇いたような気になったのをよく覚えています。それは、やはり、嬉しさだったんだと思います。そしてその上で、中学生の女の子が高校生男子に囲まれて部活をやり、文芸部に馴染んで定着してくれるかどうかの、ちょっとした緊張だったのだとも思います。

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