73:その日もふらっと駆け込んだ保健室で。
保健室が澄ましたように感じられるとか思いながらも、それでも学園中おそらくトップレベルで保健室にお世話になっていた私。文芸部で部誌の新刊が出るたびに、保健室にもご挨拶とともに冊子を差し上げていました。
これはなにも保健室だけではなく。私は、担任や副担任の先生はもちろん、教科の先生や個人的に補習をしていただいてる先生、図書委員でお世話になってる図書室、いわゆる売店や食堂のおばさんがた、いつも明るく挨拶をしてくださる用務員のかたなど、学園内でかかわりのあるありとあらゆるかたに部誌を配りまくっていたのですね。まあなんというか普通のペラッペラした紙の束に、中高生の文章が載ってるだけですが――さすがそこはおとなのみなさまです。笑顔で受け取ってくださった想い出ばかりです。
時間は、すこし戻ります。
高校二年生の二学期、文化祭は終わって落ち着いていた時期のある日。いつも通りもう授業ダルいなーって内心でつぶやきながら、当時は完璧にごまかせてると思い込んでいた苦しそうな愛想笑いで、「保健室……行っていいですか……」と挙手して、ふらふら歩く演技をしてたどり着いた保健室。
保健室でもまあおおむね「いつもの」だってバレてはいたのでしょう、ベッドはだれか来るかもしれないからとソファに座らされました。
自分で来たくせに手もちぶさたな私は、なにげなく自分たちの出した部誌に手を伸ばしました。保健室の先生がたもお優しくて、ソファの真ん中のけっこう目立つガラステーブルに文芸部の部誌を置いてくださっていたのです。
まあたいして体調不良ではないと判断されていたのでしょう、保健室のおとなっぽいほうの先生が私に話しかけてきました。
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