74:私の読者でもあった。それはたしかにひとつの決定的な出会いでした。
「あ、そうだ○○さん。それね、あなたたちの部活の部誌ね、最近よく保健室に来る中学生の女の子が読んでね、すごく感動してたみたいで。文芸部に入りたいーって言ってたよ。そうだそうだ、思い出してよかった。
文芸部って中高いっしょにやってるよね? 部長さんに会いたいんですけど、高校生の校舎に行くの怖いですって。まあ中学生にしてみれば当然だよね。
それにこれ、みんなペンネーム……でしょ?」
私は肯定しました。私はそのときからすでに、いまも名乗っている「柳なつき」でした。
「うん、だから部長さんが何年何組のだれだかわからないって。顧問の先生に訊いてくれてもいいんだけどさ、まあせっかく○○さんもよく保健室に来てるんだしさ、紹介してあげるからよかったらいちど保健室で会ってみてくれない?
ちょっと難しい時期みたいで、繊細なところもある子なのよ。だから保健室で私たちもいっしょにいるとさ、安心すると思うし。○○さんも中学のときのこと思い出してみてほしいんだけど、やっぱ中学生から高校生ってすごく上に見えるわけじゃん。高校生側が思う以上にさ。
ね、だからめんどくさいかもしれないけど、おなじ学園の先輩として頼まれてくれないかな。お互いにとって悪くない、楽しい話だと思うしさ」
もちろん、もちろん、頼まれます。嬉しいです。そんなのは。めんどくささも、なんのその。
だからすぐさま、もちろんです、とうなずく私の隣に、先生が仕事の手をいったん止めてよいしょとやってきました。
「ああ、そうそう、この部誌を読んでなのよね。それでなんか、これ、この短編が気に入って、文芸部にあこがれたって言うのよ。この作品の作者さんがおなじ学校にいるなんて、すごいですって、会ってみたいって。これペンネームだけど、○○さんの作品よね?」
私は、今度はさらに急スピードでうなずきました――まさか中学二年生だなんて容赦ない年齢段階のしかも女の子に、私の小説が届いて、響いてたなんて!
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