47:演劇を観に行くかどうか悩んでいた、そのわけは。

 ――さて、そんなこんなの文化祭当日でございました。

「私がいなけりゃ、文芸部は成り立たない」にも書いたように、準備よりもむしろ当日の記憶はぼんやりとしてます。



 ただ――当日のことでひとつ、鮮明に覚えていることがありまして。

 それは、演劇部の公演を観に行こうかどうか、ギリギリまでさんざん悩んだことです。


 いままでも書いてきた通り、私は二年生に上がるときに演劇部を辞めてはおりますが、ごく個人的な相性や時間の都合の関係でそうしただけであり、部員とのトラブルなどで辞めたわけではありません。

 実際演劇部の同期たちとも、廊下ですれ違うと明るくあいさつを交わしたり、文芸部に友達が遊びに来たり、クラスのいっしょの相手とは相変わらず仲よしだったりと――退部したにしては、すくなくとも見える範囲では良好すぎる関係を維持してました。


 観に行けない理由はひとつもなかったですし、観に行かない理由にも乏しかったです。

 文芸部のブースにはだれかひとりがいてくれればいいのですし、クラスのほうのシフトはたった一時間とかその程度だったのですから。



 なので。

 これはあくまでも、もしもばなしに過ぎないのですが。




 私は、後輩くんが演劇部ではなかったら、素直に演劇を観に行ったかもしれません。

 いえ、もちろん観たくないわけではなかったのです、劇を見たかったし、劇のときに彼がどう振る舞うのかも見たかった――なんですけど、怖い、という気持ちがむくむくと私の心を圧迫していたのも、ほんとうだったのです。

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