33:彼氏が楽しくやっていたことは、私の合わなかったことだった。

 私は、もともと文芸部に入りたくて高校選びをした人間でした。

 中学時代、学校に行っていなくて引きこもりだったため、内申点が影響しなくてかつ文芸部があるという学校を探したら、すくなくとも当時は都内に一校、うちの学園しかなかったのです。


 高校に行けるだけで夢のようだと思いました。

 なにせ、一年半も教室というところに足を踏み入れていなかったのですから。



 けど、やはり、人間というのは、環境に適応して変わってゆきます。

 中学までは前髪で目を隠して唇を噛みしめてうつむいていた私が、高校からは嘘のように花畑で踊り狂うかのような明るいキャラになったように。

 それは、進路についてもそうでした。高望みなどなにもしていなかったはずの私は、いつのまにか受験戦闘民族になってました。高一のときには、すでに。



 文芸も楽しい。演劇も楽しい。勉強も、大変ではあるけど楽しい。

 ですが、文芸部と演劇部と兼部していれば、さすがに文化部どうしとはいえ一週間のスケジュールはかなり埋まります。

 文芸部は週三で、あとの三日も演劇部で。ましてや演劇部というのは公演前にはがっつり稽古をするものです。

 そして放課後の補習や先生がたとの学術談義。これもほんとは週に二回か三回はやらなければいけない――いえ、正確に正直に言いましょう、私はもっと勉強をしたくなっていたのです。




 どこかを、切り捨てなければいけないと――高校一年の私が思いはじめるのは、ある意味では道理でした。




 ……そして。

 もっともっと、醜い感情を、ここで素直に認めるならば。





 私は、こういうでっかく高く見える理想を理由に、都合よく演劇部を辞められると思ったのです――つまり演劇部は私にはしんどかった。

 メンバーに不満はほとんどありませんでした。みんな仲よしで、クラスが被っている演劇部員のひとたちはそのあともずっと変わらず仲よくしてくれて、おとなになったいまも飲みに行くような友達も残ってくれています。




 演劇、です。

 演劇、そのものが――私には、たいそうつらかった。

 合わなかった。

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