31:ちょっとちくっとする気持ちを感じながら。
秋。涼しくて、落ち着いてくる季節。
季節のそんな性格と反比例するかのように文化祭に向けていつもうずうずしているかのような校舎。
このころから私は、気がかりなことができてきました。
それは、後輩くんが、思った以上にずいぶんと部活や学校に馴染んできたっぽいことです。
文芸部でも、いつのまにか。私の同期の男の子たちとラノベを貸し借りして感想を語り合ってたり、彼自身の同期とも当時流行りのオタクネタを題材にして盛り上がったり。とにかくだれかと気さくに話しているような場面が、日常として見受けられるようになってきました。
そして演劇部のほうでは。私は話に聞いていただけですが、文芸部よりももっと強そうなつながりができているように見えました。文芸部はもちろん仲よしでしたが、やはり演劇部というのはみんなでつくりあげる発表の場のある部活。稽古の時間も密度も、そしていっしょにやっていく喜びも、そこにかんしては文芸は到底かないません。すくなくとも当時の私はそう感じていました。
正直なところ、ですね。
失礼な話ですけど、意外でした。
後輩くんは、もっと馴染めないひとだと思ってました。
馴染みきれないひとなのだろう、と。
あるいは、馴染む意思があまりないのだろう、と。
しかし。
入学したてのころは様子見で、おとなしくしていたとしても。
二学期になって。彼からすれば半年近く学園で過ごしたことになり、そのまま馴染んでいったことは、ある意味では当たり前でしょう。
そうです、私だって新入生のころ最初は猫をかぶってたけど、半年もすればのびのびとはっちゃけるようになったように――。
……もちろん、微笑ましく思っていました。
もちろん。
ああ、いっぱい友達や先輩や、付属中学の後輩もできて、よかったね、って。
ただ――微笑ましく思おうとしていた、という側面がなかったか、というと。
まったくなかった、とは言い切れないです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます