20:彼のなかでなんらかの反応が起こっていることが嬉しかった。

 そのらへんの時代の彼の表情で、私がいまもよく覚えている顔がありまして。

 それは、彼がとてもびっくりしたときの表情です。


 なんと形容すればいいのか、その……「えっ?」「んっ?」みたいな感じで、笑みに近いけど笑みじゃない、いかんとも言いがたい表情を浮かべる。

 おそらくですが、驚きすぎて、それを自分なりに自分のなかに落としていくことが開始する瞬間の表情、といいますか。

 とっさに受け身が取れなくて、フリーズしてる感じといいますが……。


 そんでなおかつ、かなり驚いてはいるけど先輩女子だからあからさまに反応に出せない、だから言及はできない。

 そんなような若い男の子にありがちな自己制限も見える表情でしたね。



 もともとぼんやりさんで、こちらとしては表情も乏しく思っていた後輩くんですから、私はやがて彼が「驚くときにはちゃんと表情らしい表情を見せてくれる」ことにハマっていってしまいました。


 彼のなかに、なにかが響いているんだと、

 すくなくとも彼にとって私は「無風」の存在ではないんだと、

 それならたとえほんのわずかでも、そよいでくれることが嬉しい、と。


 なにせ出会いたてにわりと深刻なコミュニケーション不全と感じていた相手なだけに、そうやって驚いた顔を見せたりすこうし言葉が交わせるたびに、私は大満足して、もっともっと楽しくなっていきました。エスカレートした……。



 見た目や雰囲気ほどには。

 このひとは、外界を認識できていないわけではないし。

 ……じつは、どうでもいいというわけでも、ないのかもしれない。と――。



 だから、私は。

 その内容が変かどうかを精査するひまさえも惜しく、思いついたことをばんばか彼にぶつけるようになりました。

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