10:最初、ぼんやりさんだなと思いました。とても。
私は部長でしたので、新入生向けの部活紹介で、三百人ほどいた新入生の前で文芸部の紹介スピーチをしました。
緊張するにはしましたが、けっこう明るくこなせた記憶があります。
でも、そのあと新入生が文芸部に来てくれるかどうかはドキドキでしたので、押しかけるかのようにどっといっぱい来てくれたことは、ほんとに嬉しかったのですよね。
そういうわけで。彼の前にも入部希望の新入生はたくさん来ていて、そしてまたしてもなぜか男の子ばかりでした。
体験入部期間にはさらに十人くらいのひとが増えて、もともと賑やかだった文芸部がさらにしっちゃかめっちゃかなレベルで賑やかになっていました。
とても楽しい新しい季節のはじまりといった感じでした。
そのなかに、彼もいました。
彼はもともと演劇部に入ることにしてたらしいですが、演劇と文芸と兼部している私の同期に連れられて見学にやってきたのです(ちなみにですが、この演劇部と文芸部の微妙な関係みたいなやつは私と彼の高校時代の関係性にダイレクトに影響を与えてます。あとで、このことも出てくるかなと思います)。
彼は、見学の新入生のなかではどちらかというと遅めにやってきたメンバーのひとりではあり――それが関係あるのかないのかは当時の私にはわかりませんでしたが、なんかいつも部室代わりにしていた教室(うちの学園は文化部には部室がありませんでした)の隅のほうで、まだ真新しい指定かばんを机の上に置いて、ぼんやりしていたような気がします。あのときにはたぶん口数が少なく、反応も少なかったですね。鈍いというか、あれちゃんと話聴いてる? 聞こえてる?? というか……。
私のみならず、だれに話しかけられてもなんかそんな感じでした。ぼんやりしてた。
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