9:彼はあの春に私が部長だった文芸部にやってきたのですよ。

 春。高校。東京の下町の、おっとりのんびりした校風の私立高校。

 元女子校で、完全共学化してからもうある程度の時が経っていましたが、それでも内部では「女子が強い」「男子が弱い」と楽しげにささやかれる校風でした。当時はたしか6:4くらいで女子のほうが多かった記憶があります。


 ですが、文芸部は当時男子ばかりでした。

 男子が十人くらい、わらわらと。女子もいたにはいたのですが、おもに私のお友達を連れてきて、いっしょの時間を過ごしてもらってる、といった感じでした。

 文芸部は、代ごとに男子か女子かどちらかに極端に偏る――そう教えてくださったのは、顧問の先生でしたっけ。


 そこで私は部長を務めていました。

 いまよりももっと、いくぶんかなり、「変なひとっぽい」ふるまいをしていたことは間違いがないです。

 たぶんむちゃくちゃ目立ってました。


 まあ、そもそもが、しょせん。

 中高生(付属中学がありました。部活も中学生と一緒にやってました)たちのことです。内部で、恋愛沙汰みたいなのもなかったわけではありません。私もちょこっと当事者になったことも、ありましたし。


 それでも総じて言えば、おおむね私たちは、あくまでも「仲間」として、とても楽しくわいわいと賑やかにやっていたと思います。

 三年生の先輩たちが引退して。そこからは、ひとつ上の代がたまたまいなかったので。高一生とあとは中学の子ばかりで。なんだかまだ高校一年だというのにもう最上学年みたいな感じで、みんなでわいわい騒いでましたね。

 ほんとうに、とても賑やかで、仲のよい部活でした。いま、思い返しても。



 そして当然春となり、私たちの代が高二となれば、後輩にあたるひとたちのさらなる入部も期待されました。

 すくなくとも部長の私自身は、めちゃくちゃ期待してました。



 彼は、そんななかで、当時副部長だった同期の男の子に連れられて、やってきました。

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