11:超基礎的なコミュニケーションができてなかったのですよ。

 体験入部期間を経て、もちろん入部をやめたひともいましたが、五人か六人くらいの新入生がそのまま馴染むかのかたちで入ってくれました。

 そもそもが部員の少ない傾向にある文芸部としては予想以上の成果でした。よっしゃ、とガッツポーズする思いだったのをよく覚えています。


 私は冗談めかして、新入生のみんなに、「ほらー、早く入部届書いちゃいなよー!」などと毎日言っていました。

 いまにして思うとアクの強すぎる部長キャラだったと思います……いま振り返ってみんな自由意思で入ったと信じたい、そんな元部長ですが。


 で、そのなかで、彼氏は――このときは彼氏ではなかったので、ちょっと当時を思い出して「後輩くん」とでも言いましょうか。

 のちに彼氏となるその後輩くんは、私にとっては、すべての新入生メンバーのなかでいちばん「だいじょぶかな、この子。なんか唐突になにも言わず入部をやめて去っていきそう……というかなんなら演劇も文芸も入らず帰宅部とかになっちゃうのでは……そして放課後はすぐ直帰するみたいになり、そういうぼんやりした高校生活で三年間終わってしまうのでは……」という、漠然とした危惧感を抱く相手でした。



 なにせ、すごいぼんやりさんで。

 コミュニケーションが取れているのかどうか、よくわからなかったのですよね。

 いや、それはですね、けっしてこう……話の内容がわかりあえてるかとか、中身ある会話ができてるか、とかじゃなくて。


「おはよう!」「あ、後輩くん来てくれたんだー!」「お疲れー!」

 とかいうレベルの、意思疎通という以前のコミュニケーションが、なんかこう……うまく取れてなかったのですよね。

「おはよう!」と言えば、「あ……」って感じだったし。

「来てくれたんだ!」と言えば、「まあ……」って感じだったし。

「お疲れ!」と言えばこう――「お疲れさま」っていう文化を知らないのか??とかこっちが思ってしまうくらいに、言葉とも反応ともつかない曖昧な会釈もどきをよこして、すっと消えてく、みたいな……。


 あと目が合いませんでしたね。あのときは。眼鏡の奥で、どこ見てんだって感じだった。



 こう、人間どうしとして当たり前のコミュニケーションがこう……できてなかったといいますかね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る