おまけ

新兵の訓練

※グレイスの実力を端的に示すエピソードです。

 ついでに、「有原の戦闘シーン描写を練習する為」のエピソードでもあります。



「皆様、準備はよろしいでしょうか?」

「「はい、グレイス様!」」


 わたくしの問いかけに、一斉に答える新兵5人。とはいえ、彼らは士官学校の成績優秀者ベスト5でもあります。


 そう。

 “リナリア・ゼスティアーゼ1機”対“インフレイム5機”という構図が、出来上がっていたのです。


 此度こたびの模擬戦は、“優秀な成績を収めた者への褒美”という意味合いがあるのです。

 もっとも、「上には上がいるのを忘れるな。最初の模擬戦で、それを刻み付けてやる」というのが、本来の意味なのですけれど。

 昨日、私に頭を下げに来た教官も、今では笑いをこらえておりますし。

 彼の期待に、応えて差し上げませんとね。うふふ♪


 こほん。

 さて、このような経緯により、今やすっかり主力機となったインフレイムに搭乗する彼らを、全力でシゴk……いえ、お相手する事となり、わたくしはリナリア・ゼスティアーゼに搭乗しておりました。


「では、参ります!」


 わたくしは――両手を添えた――リナリア・ゼスティアーゼを操作する為のクリスタルに、具体的な映像イメージを送りました。



     *(ここから三人称)



 グレイスのイメージが伝達されると同時に、リナリア・ゼスティアーゼの青いアイバイザー――正確にはその下のツインアイだが――が激しく発光する。


 剣礼――剣先を上に向け、眼前に構える姿勢――を解除し、盾を前面に掲げながら、一気に疾走して距離を詰めた。


「ゲイン、撃て!」

「おう!」


 新兵の一人が、携行する76.2mm速射砲を撃つ。


「愚直ですわね」


 しかしリナリア・ゼスティアーゼの盾に阻まれ、HESH粘着榴弾はロクな効果を発揮できぬまま、無駄に散る。


「遅い!」


 そしてそのかんに距離を詰め切ったリナリア・ゼスティアーゼは、手にする長剣を袈裟けさ斬りの要領で振り抜いた。


「ぐっ……!」

「ゲイン!」


 球体状のコクピットブロックが、両断されたインフレイムの上半身背面から飛び出す。

 遅れて、ズシンというインフレイムの上半身が落下する音が響いた。

「一刀両断」、その言葉を体現したリナリア・ゼスティアーゼに怯え、後ずさるインフレイム達が4機。


「さて、まずは1機。

 皆様、どうぞ遠慮なさらずに掛かっていらっしゃいませ」


 リナリア・ゼスティアーゼが剣と盾を構えなおすと、インフレイム達も慌てて76.2mm速射砲や47mm速射砲を構える。


「撃て、俺たちは4機だ!」

「おう!」


 新兵の一人が仲間を鼓舞しながら、同時攻撃でリナリア・ゼスティアーゼを仕留めんとする。


「戦いとはこうでなくては」


 リナリア・ゼスティアーゼは走りながら、盾で砲弾の嵐を防ぐ。

 ひし形の巨大な盾を頼りに、しかし下半身の動きを絶妙にコントロールしていた為、砲弾の9割は盾に防がれた。残りの1割は空を抜けたものである。


「撃ち続けろ! 今なら突き崩せる!」


 次々と砲撃を続けるインフレイム4機を見て、グレイスは微笑む。


「うふふ、血気盛んな皆様ですわね。

 さて、そろそろお返しをしなくては」


 気勢を上げる新兵達を見つつ、リナリア・ゼスティアーゼが剣を不自然に構えた。


「撃ち方止め、避けろ! アレス……!」

「えっ?」


 アレスと呼ばれた新兵が反応する頃には、時すでに遅し。


 リナリア・ゼスティアーゼが、のであった。


「くそっ、脱出だ!」


 胴体を貫通されていたインフレイム。

 致命傷と判断したアレスは、素早く脱出用の信号イメージを送り、擱座しつつある機体から脱出したのであった。


「これで2機ですわね。

 皆様、どうなさるおつもりかしら?」


 残った3機に向け、グレイスは拡声機能をオンにして呼びかけていた。


「くっ、いきなりあんなバケモノと……!」

「けど光栄だろ、グレイス様と戦えるなんてよ!」

「ああ、あの方になら、負けてもいい……! 行くぞ!」


 3機のインフレイムは互いを鼓舞しあうと、携行していた火砲を全て投棄する。

 そして剣と盾を構えると、3方向からリナリア・ゼスティアーゼに襲い掛かった。


「あら、あらあらあらあら。

 、皆様」


 が、リナリア・ゼスティアーゼは何もしない。


「どうされたのだ、グレイス様は!?」

「馬鹿、今は模擬戦だ!」

「お、おう!」


 若干の動揺を見せたインフレイムだが、すぐに攻撃を続行する。


「その見事な連係に敬意を表し、わたくしの実力の片鱗を――お見せして、差し上げます」


 と、リナリア・ゼスティアーゼの大盾がガシャリと音を立てて変形した。


「!?」

「だが、この距離なら……!」


 新兵達は今こそが好機とばかりに、攻撃体勢に移る。

 にもかかわらず、リナリア・ゼスティアーゼは、あくまで不動を貫いていた。


 リナリア・ゼスティアーゼを象徴する、冥王星型の大盾。


「さあ……行きますわよ」


 それはグレイスから供給された膨大な霊力によって、白銀色の光を纏い始めた。

 同時に、リナリア・ゼスティアーゼのアイバイザーが光り輝く。


「もらった……!」


 が、既に勝利を信じきった新兵達は、インフレイムの剣を振り下ろし――


「刹那の舞いをご覧なさい」


 リナリア・ゼスティアーゼが時計回り回ったと思った瞬間、


 1機は長剣で、もう1機は大盾の先端で、残る1機は


「がっ!?」


 無論、肘を断ち切って終わりではない。

 剣は、盾は、つま先は、やはり同時にインフレイム達の頭部を両断・粉砕した。


 遅れて、コクピットブロックがインフレイムの背後から飛び出した。

 予備のカメラが有るとはいえ、これだけの実力を見せつけられてなお、リナリア・ゼスティアーゼに挑む者などいなかったのである。


「そこまで!」


 と、試合を見届けた教官が制止の合図を出す。

 それを聞いたグレイスは、リナリア・ゼスティアーゼへの霊力供給を止め、コクピットブロックの外に出た。



     *(ここから一人称)



「皆様、お疲れ様でした」


 リナリア・ゼスティアーゼのコクピットから出たわたくしは、彼らが無事である事を確認します。

 ほっ。このくらいの戦闘では、大した負傷は無いようですね。流石ベスト5、と言った所です。


「姫様、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!!」」


 コクピットブロックから出てきた全員は、わたくしに頭を深く下げます。

 わたくしは彼らに報いる為、固い握手を交わしました。


「これからも自らの力に驕らず、わたくし達アルマ帝国の為に、より一層励まれる事を期待します」

「勿体無き、御言葉……!」


 そして彼らの見送りを受けたわたくしは、リナリア・ゼスティアーゼでカメリア宮殿へと帰るのでした。



作者からの追伸


 有原です。

 このグレイスの戦いは「機体性能で勝った」だけではありません。


 単刀直入に言います。

「今回のグレイスの戦法は、インフレイムでも再現可能」です。

 つまり同型機でも(=リナリア・ゼスティアーゼの性能に頼らずとも)、結果は同じという事です。


 以上、補足でした。

 最後に、機体説明のURLだけ貼付いたします。

 では、今回はここまで!


リナリア・ゼスティアーゼ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887140023/episodes/1177354054887156246


インフレイム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887140023/episodes/1177354054887159162

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冥王星の騎士 有原ハリアー @BlackKnight

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