1話完結 遺伝子の旅

パクスヤナ

ンダンダ族

日本の労働人口が足りないという理由でいろいろな法が整備されて、若い人達が海外からやってきてから何年経ったのだろう。私の会社も例外なく様々な国からたくさんの人が仕事を求めて入社した。もう従業員の半分は外国人でなかろうか。とはいってもほとんど皆が帰化していて国籍など関係ないかもしれない。


アフリカの聞いたこともない国の種族長の息子、ンダンダ族の彼もまたその中の1人だ。日本に吸い寄せられるかのように2019年にやってきて恐ろしい速度で日本語や文化体系を習得していまや私の右腕として経営に携わっていてくれる。大したものだ。


ある日、新製品を売り込むため国内を回っているとき。東北から関東を目指してを行脚しているときだった。事件が起こった。


普段デスクワークばかりしている彼は初めて見る地方の風景に感銘を受けて子供のようにはしゃいでいた。ビジネスはそれなりに成果を出していたので少し休憩しようと車をコンビニに乗り入れた。正確にはコンビニの体をなした地方の独自ブランド、早い話がおばあちゃんの雑貨屋だ。


いらっしゃいという小さな声は滅多に来ないであろう黒人の大きな体格や引き締まった体に纏うスーツに釘付けだったのは視線でわかった。彼は都心では売っていない謎のゼリーのお菓子や何が挟んであるかわからないパンを物珍しそうに手にとってはまじまじと眺めている。買っていいぞと言うと喜んで抱きしめるように持った。肝心の珈琲が並ぶコーナーまで来たときにもう彼の手はいっぱいだったので買い物籠を店主のおばあさんに要望した。


買い物籠なんかないから、これを使ってくれと差し出したのは何かの植物の蔓で編んだ籠だった。それが出てきた瞬間、ンダンダ族の彼は持っていた物を全て床に落とし震える手でその籠を手に取った。これは、この編み方は何という編み方でしょうか?何の植物ですか?誰が編んだのですか!?と間髪入れずおばあさんに問い詰める。私が籠一つに大袈裟なやつだと、床に落ちた商品を拾ってる間にいくつも彼は店主に質問する。


声を聞きつけて、奥から店主のおばあさんの更に干して乾かしたようなおじいさんが出てきた。おじいさんもまさかこんな流暢な日本語を話しているのがスーツを来た黒人とは思わなかったのか、ぎょっとした顔で


あーいぇ!あややどこげ、どでしたぞ!


そういうと彼は冷や汗を拭いながら、いつか私に教えてくれたンダンダ族の言葉で驚いたときに使う単語を並べた


ンダ ドデン シタ…


その夜に辞表を受け取り、彼は言語学者になると言って東北に残りどこかの大学に入ってアフリカと日本を行き来していたらしい。それからしばらくしてこの学会への招待状を寄越した。

私は重要なビジネスを片腕を失ったが、彼の研究の成果を聞くのが楽しみで仕方ない。

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